ビートルズ・マジック最後の煌めき、けじめの挨拶
The Beatles / Abbey Road
1969年作品
収録曲:A面
①Come Together
②Something
③Maxwell’s Silver Hammer
④Oh! Darling
⑤Octopus’s Garden
⑥I Want You (She’s So Heavy)
B面
⑦Here Comes The Sun
⑧Because
⑨You Never Give Me Your Money
⑩Sun King
⑪Mean Mr. Mustard
⑫Polythene Pam
⑬She Came In Through The Bathroom Window
⑭Golden Slumbers
⑮Carry That Weight
⑯The End
⑰Her Majesty
目次
ビートルズとローリング・ストーンズは、1960年代を代表するロックバンドとして、または世界における2大バンドとして昔からよく比較されるわけで(比較する土台がそもそも違う気もするんだけど)。
あえてどっちがどう、って派閥めいたことを言うなら、自分は断然ストーンズ派(笑)。
ベスト・バンドは、ザ・フーだし。
なんだけどやっぱり、ビートルズは凄すぎるんだよなぁ。
デビュー時から比較され続けてきた、ローリング・ストーンズ
「ビートルズはロック史における最重要なバンドであって、これ以上の言葉は必要ない」。
以前何かで読んだことがあるけど、ほんとその通り。
ビートルズ以外の音楽はこの世に要らないんじゃないかって思うくらい、大袈裟じゃなくありとあらゆる”音楽の可能性”をたった10年でやり尽くしちゃってるし、何より後世への影響力が、半端ないもんね。
それこそ、オアシスを筆頭に。
・オアシスの名曲「Whatever」については、以前書いたこちらもどうぞ
日本の音楽史においてもフォーク、ポップス、ロックに対して影響絶大。
それは世界中で現在に至るまでもそうで、凡百なインフルエンサーなんておっそろしくて尻尾巻いちゃうんじゃないかな。
ヴェートーヴェンやモーツァルトを現代人が聴いてるように、きっと4、500年後の人間が、同じようにビートルズを聴く。
そう、確信してます。
そこで今作は、1969年作品の「アビイ・ロード」。
ビートルズが発表したスタジオ・アルバムはどれも名盤、”自分にとってのナンバー1アルバム”は人によって当然分かれるはずで。
実際、自分もいっちゃん好きなのは「リボルバー」だし。
ビートルズ7作目のスタジオ・アルバム「リボルバー」
でも、やっぱり今作からでしょ、っていうかね。
1周回ってやっぱりこれでしょ、っていうか。
ビートルズという不世出なロック・バンドが終わろうとしてた1969年に制作された「アビイ・ロード」は、”実質的な”ラスト・アルバム。
この後、発売順としてはラストになるアルバム「レット・イット・ビー」を置き土産に、ビートルズは解散します。
何故今作が”実質的ラスト”かというと、「レット・イット・ビー」の制作/録音が「アビイ・ロード」のそれよりも前だったからです(実はいくつかの楽曲はジョン抜きで「アビイ・ロード」よりも後に録音したので、やっぱり「レット・イット・ビー」がラスト・アルバム、とする向きもあり)。
とにかくこの頃のビートルズはメンバー間の不和もあって、バンドは崩壊状態。
書籍なんかで読んで何となく想像はしてたんだけど、2021年に公開されたドキュメント映画「ザ・ビートルズ:Get Back」見た?
想像を超える崩壊っぷりに、変にハラハラしちゃって。
この後、どうなっちゃうの?って。
解散するって知ってるのによ?
それでもこれだけ完成度の高いアルバムを、しっかりけじめつけようぜって最後の輝きを放つように作れちゃうんだからねぇ。
なんかもう凄いっていうよりは、呆れちゃうっていうか(笑)。
やっぱりとんでもないバンド、奇跡的グループだとしか言いようがないもんね。
そりゃそうか、ジョンとポールっていう、2人の超天才が共存してたんだから。
それ自体、あり得ないんだから。
そして大化け中のジョージ、緩衝材で潤滑剤なリンゴ。
まさに、奇跡だったんだよなぁ。
では、聴いていきましょう。
まずは①、はい即死。
死因は当然、射殺ですよ。
だって、「シュッ(実際には Shoot me)」ってジョンが言うんだもん。
なんだろこの曲、なんか変じゃない?
語彙が足りなくて申し訳ない、でもなんか変じゃない?
凶悪なベース、スリリングなドラム、不安気なコード、そして不敵でセクシーなヴォーカル。
全てが、不穏。
でもそれが、最高にかっこいい。
決まり。
このアルバム、もうこれで決まり。
そして、②。ジョージの代表曲って言われるけど、間違いなくビートルズの代表曲のひとつ。
後述するB面の冒頭となる⑦と並び立つ、ジョージ作の屈指の名曲。
ジョンとポールのみならず、ロック・スタンダードをここで確立しちゃうわけです。
大化け中のこのビートルズの末っ子は、今作の至る所でプレイヤーとしてもサウンドの要となるその力量を解き放ちまくり。
ベースのフレーズも完璧だし、リンゴのドラムも、張り詰めたスネアの震えまで伝わってくるぜ。
バンド初期を彷彿とさせる少し懐古的な、ポール作による十八番なR&B④(ジョンのヴォーカルでも聴いてみたかったなぁ)、そしてマイペースでシンプルなポップ・センスが光るリンゴ作⑤。
なんて言うんかな、バンドってよく車に例えられるけど。
車体がドラムで、タイヤがベース。
エンジンがギターで、ヴォーカルが運転手、みたいな。
でもこれまでのビートルズはジョンとポールっていう奇跡のツートップが中心になって、担当楽器に限った話ではなくその都度その都度ポジションを入れ替えながら走ってきたわけで。
でも今作では、そんな走り疲れたビートル(注:ここではフォルクスワーゲン・ビートル)を2人だけじゃなくて、合間にジョージとリンゴが入ってうまく進行をタクトしてるっていうか。
しかもそれがジョージは意識的なのに対し、リンゴは無意識的。
自身を際立たせながらも、素晴らしい流れを作るジョージ。
一方で、お口直しというか、お茶目にバランスを取ってるリンゴ。
そんな風にも聴こえてきます。
そしてA面ラストは、ジョン作の⑥。
これぞジョン!な、呪術的でヘヴィなラヴソング。
ジョンは、ほんとこういうの作るの天才的だよね。
個人的には「ハッピネス・イズ・ア・ワーム・ガン(ホワイト・アルバム収録)」、「ヤー・ブルース(同アルバム収録)」、「ドント・レット・ミー・ダウン(レット・イット・ビー収録)」に並ぶ、いつ聴いたってサブイボ天国。
いや、地獄なんか?
そして重く無機質な、延々と続くようなアウトロが突然ブツリと切れて、「えっ、終わり?」って驚いたのは自分だけじゃないはず。
そこからの、B面である後半戦開始がジョージ作⑦。
それはまるで、ひたすら愛情を乞う重々しい枯渇した荒野に、生命力に溢れた燦燦とした太陽が昇るが如く。
これね、是非レコードで聴いてほしい。
どういうこと?不良品じゃないよね?ってある種の混乱と高揚を抱えながら、盤を引っ繰り返して針を落とす。
すると流れてくるのは、この世の物とは思えないせせらぎのような透き通ったイントロ。
うっとりよりも先に、腰を抜かすこのギミック。
やられたぁ~って唸ること間違いなしです。
その後のソロ活動への布石、すんげえよ、ジョージ!
「アビイ・ロード」は、①~⑧がメンバーそれぞれが持ち寄った楽曲で構成されてます。
要は、それぞれが勝手に何の相談もなく持ち込んだだけって話。
何度も言うけどさ、こんなバンド状態での(いや、だからこそなのか)勝手持ち込みで、よくここまで仕上げられるよね。
この、統一感。
「ホワイト・アルバム」の時も、そうだったけど。
そして⑨~⑯こそが、ロック史に刻まれた、かの有名な史上最高の怒涛のメドレー。
この構成、神か。
通称、”ザ・ロング・ワン”。
これぞ、ビートルズ・マジックの最後の煌めきなんだな。
ポールとジョンのヴォーカルを交互に紡ぎ、アルバムは少しずつ、でも加速度的に終焉へと向かう。
自らの神話に決着をつけるべく、しっかりとファンへけじめの別れを告げるべく。
史上最も偉大なロック・バンドの物語に、幕が降りる時が遂にやって来るんだよね。
最後の力を、振り絞って。
(⑭「Golden Slumbers」より)
Once there was a way to get back homeward
Once there was a way to get back home
Sleep pretty darling, do not cry
And I will sing a lullaby
かつてそこには、家に帰る道があった
かつてそこには、故郷に続く道があった
おやすみ愛しい人よ、泣かないで
僕が子守唄を歌うから
(⑮「Carry That Weight」より)
Boy, you’re gonna carry that weight
Carry that weight a long time
Boy, you’re gonna carry that weight
Carry that weight a long time
そうさ、君はその重荷を背負っていくんだ
ずっと、重荷を背負うんだ
みんな、その重荷を背負っていくんだ
ずっと、背負っていくんだよ
稀代のポップ・メイカーである、ポール節がここで炸裂。
美しく壮大なピアノに、吐き出すようなヴォーカル。
それでも自分の意志で前を向こうとする、確かな信念。
誰もが経験したであろう苦い記憶が、衝動的にセンチメンタルに去来する。
涙が、零れちゃう。
そして初となるリンゴのソロ・ドラムを狼煙に、ポール、ジョージ、ジョンによる火花散るギター・バトル・リレーで新たな幕が上がる。
直ぐに、再び降りちゃう幕なんだけど。
ほんの、たったの、約2分だけど。
正真正銘、最後の2分間。
(⑯「The End」より)
Oh yeah,alright
Are you going to be in my dreams
Tonight?
And in the end
The love you take
Is equal to the love you make
今夜、君は僕の夢の中に出てくるだろう
最後には
君が受け取る愛は、君が与えた愛と同じになるんだよ
ラスト・アルバムの最後の曲が、「The End」。
言葉なんか、要らんのよ。
ただただ、聴けばいいのよ。
想いを、馳せればいいのよ。
俺とビートルズの出会い、人生の要所要所で聴いた名曲たち。
そして明日もまた、きっと死ぬまで聴くんだろうなぁなんてどこか他人事な感情。
”ロック/ポップ史における1枚”は、8作目のスタジオ・アルバム「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」。
これに、異論のある人はきっといないでしょう。
でも、”ビートルズにおける1枚”は、間違いなく今作。
ビートルズの、最高傑作。
最高傑作がラスト・アルバムだなんてミュージシャン/グループ/バンド、いる?
「5人目のビートルズ」ことジョージ・マーティンの言葉。
「これが最後のレコーディングになることは、みんな分かっていた」
音楽の方向性の違いで解散したロック・バンドなんて、ひとつもない。
ロック・バンドに、民主主義なんて存在しない。
それは、歴史が証明してるもん。
ビートルズさえもまた然りで、喧嘩別れの解散。
それでも、最後に”これだけのもの”を作っちゃったんだな。
そして今思うと、60年代ロックの到達点であると同時に、終焉をも歌っているようにも思えちゃうんだから、もうお手上げ。
平伏ですよ。
ビートルズ・マジックの最後の煌めきを、是非聴いてみてください。
余談
こぼれ話
クレジットを見てもわかるように、実はラスト曲は⑰。
ただこれ、現在でこそ曲目として表記されているけど、当時はノンクレジット。
つまりは、音楽史上初の隠しトラック。
いやー、最後の最後まで、ビートルズは遊び尽くすんだなぁ。
隠しトラックなんて今じゃ当たり前だけど、やっぱり何から何まで発明家でもあったんだよね、ビートルズは。
あとは、やっぱジャケだよね。
4人がアビイ・ロード・スタジオ前の横断歩道を渡る写真。
世界で最も有名なジャケット写真のひとつ、ロンドンの観光名所。
聖地巡礼ってやつ。
ジャケットひとつでこの影響力、それはまさにアート。
現在も世界中からの旅行者がみんな真似して、記念撮影するっていうし。
こんなこと言っといて、自分まだ行ったことありません(泣)。
すいません!
使用楽器
再びすいません!
調べてもはっきりとは分からなかったので、前述で少し触れたドキュメント映画「ザ・ビートルズ:Get Back」より、ルーフトップ・コンサートから「ドント・レット・ミー・ダウン」を。
この有名な屋上でのゲリラ・ライヴが行われたのは、1969年1月30日。
今作「アビイ・ロード」の録音が始まったのが約1か月後の2月22日なので、おそらく同じだろうと。
映像からは、
ジョン:エピフォン・カジノ
ポール:カール・ヘフナー・500‐1
ジョージ:フェンダー・テレキャスター”オール・ローズ”
が確認できます。
最後に
人類の遺産、ビートルズについて今回は初めて書いてみました。
全てのスタジオ・アルバムについて、いずれは書きたいなぁなんて思ってるんですけどね。
はたして、いつになることやら。
それこそストーンズや、ザ・フーと絡めながらもやってみたいし。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
それではまた、次の名盤・名曲で。
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この記事を書いた人
Kazuki
合同会社Gencone GANNON運営代表