ニューヨーク・パンクの遺物にして金字塔、違和感から始まる物語。
ニューヨーク・パンクの遺物にして金字塔、違和感から始まる物語。
目次
Television/Marquee Moon
1977年作品
初めてジャケを見た時、「あ、これはヤバそうだな」と。
暴力的な怖さとか、肉体的な痛みから来る怖さじゃなくて。
精神的に来る、ヒリつく怖さ。
バンドメンバーのポートレイトであることは、分かるんだけど。
同じくニューヨークパンクの雄、ラモーンズの1stジャケとは真逆の質感。
※ラモーンズについては、こちらをどうぞ
このザラついた色彩は月光のようで、体温が欠落した冷たさ。
なんか、蝋人形みたいじゃん。
中心に写るトム・ヴァーレインの異様な美少年感と、何か意味深な両手のポーズ。
そんな今作のタイトルは、「マーキー・ムーン」。
ニューヨーク・パンクの金字塔にして、オンリーワンのポジションを築いた名盤です。
ニューヨーク・パンクの遺物
ちなみに、今作のジャケットを撮影した人物は、気鋭の写真家ロバート・メイプルソープ。
パンクの女王、パティ・スミスの名盤「ホーセス」のジャケットも撮影してます。
そしてこのアルバムを手掛けたプロデューサーは、ヴェルヴェット・アンダーグランドを脱退した(追放された)、ジョン・ケイル。
※ヴェルヴェッツについては、こちらもどうぞ
ニューヨーク・パンクの繋がりが、分かります。
1977年にリリースされた今作は、今もなお「ニューヨーク・パンクの名盤」と呼ばれてます。
でも聴いてみると、ラモーンズのような三和音の即効性や、パティ・スミスの挑戦的で荒削りなボーカルとは、一線を画していることに気づきます。
2本のギターが緻密に絡み合い、10分を超えるタイトル曲④はジャズの即興のように展開し、時にプログレッシヴ・ロックを思わせる壮大さを合わせ持つ。
ならどうして、今作が「パンク」とカテゴライズされ続けているのか。
この違和感こそが、このアルバムを語る出発点になるんじゃないのかなーと。
CBGBという坩堝から生まれた、孤高の存在
伝説のライヴハウスであるCBGBを中心に、史上初のパンク・
生活肌のロンドン・パンクに対して、芸術肌って言えるのかな。
人種の坩堝であるっていう点からして、
多様な要素を享受する土台が、他とは明らかに違ってくる。
となると、島国イギリスで勃発したロンドン・パンクとは、
その震源地CBGBに集ったのは、ラモーンズ、パティ・スミス、ブロンディ、トーキング・ヘッズの面々。
※トーキング・ヘッズについては、こちら
スタイルも方向性も異なりながら、既存の産業ロックに抗うという共通精神を持っていました。
ロンドンのハッタリめいたインパクトに比べると、ちょっと薄味だけど。
過去の先鋭的ロックや、ビートニク的な文学からの影響を受けつつ。
全ての物と事象が混在する、大都市ニューヨークの空気感を鮮明に焼
その中でも一際異彩を放っていたのが、テレヴィジョンでした。
ボーカルとギターを担当するトム・ヴァーレインの文学的感性に、リチャード・ロイドのギターが執拗に絡みつく、2本のギターを主役としたアンサンブルを構築。
「3コード、8ビート、3分間」の法則とは真逆に展開していく、バラエティに富んだ楽曲たち。
緊張感あふれるジャズ・セッションでありながらも、スカの要素をいち早く取り入れたり。
ポストパンクや、ニューウェイヴを予見しつつ。
同時に、DIY精神とロックの初期衝動を前面に押し出したのでした。
収録曲:A面
④Marquee Moon
収録曲:B面
楽曲解説
余りに有名なタイトル曲④はあえてスルーして、是非聴いてほしい3曲を。
まずは、ギターが軋みまくる③。
今作で、最もロックでロールな1曲です。
都市のノイズをそのまま音にしたかのような切迫感は、タイトル通り「摩擦」。
乾いたリフが鋭角に切り込み、ブレイクで空気を一瞬だけ真空にしてから加速していく。
ミュートと開放の切り替え、短いユニゾン、ずらしたアクセント。
その全てが、完璧な「ざらつき」を作ってます。
ざらつきって不快な物なのに、快感に聴こえるから凄い。
コーラスもテンション上がるし、何よりダンサブル。
あとは、ベースが良いですねー!
動き過ぎない勇気で垂直の軸を保ってからの、ハイポジションでの煽りが最高にクール。
音像は痩せて聴こえるけど実は厚い、攻撃性を音量ではなくて配置で獲得してるところに知性を感じます。
続いて⑥、この曲が一番好きかなぁ。
ザ・アメリカン・ロック。
ラスト・ナンバーに向かう中で、今作の緊張を一旦解いてくれる抒情の1曲です。
この位置にこの曲を置く、全体を通して曲順がとにかく素晴らしい。
ピッキングの柔らかいアタックとシンプルな鍵盤が、余白を豊かにしながら。
メロディは優しく語るように始まって、微かなヴィブラートで少しずつリスナーを温めていく。
リード・ギターが、押しつけがましい泣きのフレーズに頼らないところが、かっこいんだよなぁ。
エモさや感傷が、胸焼けにならないっていうか。
音数を絞ったリズム隊も最高、特にスネアが適材適所でこの曲の魅力を最大限に引き出してます。
カラーである違和感パンクとは一味違う、気高さというもうひとつの顔を提示した1曲です。
そして、重力と荘厳のラスト・ナンバー⑧。
とにかく、構成力が圧巻です。
イントロのドラムロールと、ブルージーなギター・フレーズでもう決まり。
フィルを必要最小限に留めて、スネアの位置をほんの少し後ろにしたドラム・プレイが、静かな引力を生み出す。
全体を通して、稚拙にも聴こえるギターの単音のフレーズもかっこいいですね。
ボーカルは感情を過剰に乗せず、むしろ抑制の振幅で深みを増して。
反復するフレーズが、幕が降りるんじゃなくて、次の幕開けの予兆みたいに聴こえてきます。
余韻は長く、でも決して粘着しない絶妙なバランスに仕上がった、ラストに相応しい1曲。
個人的には、フェードアウトしていくアウトロ、もうちょっとだけ聴いていたかった気もするなー。
最後に
全ては、違和感から始まった
ロンドン・
過去の先鋭的ロックやビートニク的な文学からの影響を受けつつ、
それぞれが、怖ろしいまでに個性的だし。
その中でも、やっぱりテレヴィジョンは他とは一線を画してるよね。
「これって、パンクなの?」から始まって、「なるほど、これがパンクか」で終わる笑。
今作はとにかく徹底的にクールで、研ぎ澄まされた音が鳴ってます。
鮮烈なツイン・ギターの絡みは青白い鬼火のように揺らめいて、
それでも、あくまでガレージやサイケデリックをベースにしながらも。
あのしゃくりあげるようなボーカルは、ロックの始祖のひとり、バディ・ホリーを思わせたり。
ライヴでは、ローリング・ストーンズの「サティスファクション」を頻繁にカヴァーしたり。
王道のロックンロールから、モロに影響を受けてるんだろうなぁって。
ドアーズと同じ所属レーベルを希望したことも、大いに納得出来ます。
※ドアーズについては、こちらもどうぞ
未だに、誰も辿り着くことが出来ない永遠の1枚です。
影響と遺産
1970年代の、ニューヨークに登場したこと。
トム・ヴァーレインとパティ・スミスが、恋人同士だった時期があること。
マルコム・マクラーレンがセックス・ピストルズの結成を画策した時に、ボーカルとして白羽の矢を立てたリチャード・ヘルが、テレヴィジョンの初期メンバーだったこと。
※ピストルズについては、こちら
そういったバンドに纏わるパンク関連の事実からも、単純にニューヨーク・パンクとして語られがちなんだけれど。
一旦、そういったワードや情報から離れて聴いてみると、単なるパンクではない音楽的完成度が非常に高いことが分かったと思います。
典型的なパンクの音楽性は、ほぼほぼ僅か。
でもこの異物感こそが、パンクの概念と枠組みを押し広げたのでした。
ニューヨークという街を背景に、文学的感性と音楽的実験を結晶させた今作は、今なおロック史において異彩を放っています。
パンクの名盤という呼び名に違和感を抱きながらも、同時にパンクの精神を体現していることを感じる矛盾が、最大の魅力。
エルヴィス・コステロ、ザ・キュアー、ソニック・ユース、U2に至るまで多大な影響を与えた事実が、それを物語っています。
今回も最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
それではまた、次の名盤・名曲で。
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この記事を書いた人
Kazuki
合同会社Gencone ナラセル運営代表
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