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英国最強のローカル・バンド、怒れるパブロックのアイコンにしてロンドン・パンクの導火線。

英国最強のローカル・バンド、怒れるパブロックのアイコンにしてロンドン・パンクの導火線。

目次

Dr.Feelgood/Down By The Jety

1975年作品

収録曲:A面

①She Does It Right
②Boom,Boom
③More I Give
④Roxette
⑤One Weekend
⑥That Ain’t The Way To Behave
⑦I Don’t Mind

収録曲:B面

⑧Twenty Yards Behind
⑨Keep It Out Of Sight
⑩All Through The City
⑪Cheque Book
⑫Oyeh!
⑬Bonie Moronie/Tequila

いきなり、個人的などうでもいい話なんですけどね。
日本を代表するロックンロール・バンド、ミッシェル・ガン・エレファント(以下、ミッシェル)のルーツから、今作を知った筆者。
ウィルコ・ジョンソン(以下、ウィルコ)っていうすんげえギタリストのバンドって聞いてたから、初めてジャケ見た時に。
中央のサングラスかけた、いかつい人がウィルコなんだろうなぁって思ってたら、違ったっていう笑。
左端の、なーんか目立たない冴えない感じの人がウィルコだった笑。
だってどう見たってさ、そう思うじゃん普通。

このパターン、ジャムの1stでもそうで。
いろいろロンドン・パンク聴き始めた時に、よし次はジャムにいこうと。
ポール・ウェラーって名前だけは知ってたから、初めてジャケ見た時に。
中央のサングラスかけた、いかつい(以下略)。
そうしたらまたしても、左端がポール・ウェラーだったっていう笑。
ポール・ウェラーは、イケメンだけどさ。

以上、くだらない勘違いエピソードでした。
誰か、共感してくれないかなぁ。

フィールグッド結成から、今作誕生まで

ドクター・フィールグッド(以下、フィールグッド)の中心人物にして、ギタリストでソングライターでもあるウィルコは、1947年にイギリス東部のエセックス州キャンベイ・アイランドに生まれました。
キャンベイはロンドンから鉄道で1時間足らずという距離にありながら、荒涼とした灰色の海と、吹きすさぶ潮風に包まれた沿岸の港町。
巨大な石油タンクが無機質にそびえ立つ、暴力とアルコールの町。
この、どこか終末感のある原風景こそが、ウィルコの音楽的DNAなわけで。
労働者階級の、ブルース。

10代でギターを手にし、イギリス文学を学ぶために大学に進学したけど、卒業後は音楽の道へ。
演奏スタイルは、通常のピックを使わずに指で弾く「フィンガー・スタイル」。
高速で鋭いカッティングで、狂気を伴った視線の先に向けて銃のように構えるマシンガン・ギター。
そしてチャック・ベリーのダック・ウォークばりの「クロス・ステージ・エクスカージョン」と称された、独特のステージ・アクトで知られます。
まるでギターが体の一部であるかのような演奏は、既存のロックギターの概念を覆すものだったんだよね。

1971年、地元の仲間であったリー・ブリロー(ボーカル、以下、リー)、ジョン・B・スパークス(ベース)、ジョン・マーティン(ドラム)と共に、フィールグッドを結成。
バンド名は、アメリカのブルースマン、ピアノ・レッドの代表曲に由来してます。
ちなみにこのピアノ・レッドは、ビートルズのカヴァーで有名な「ミスター・ムーンライト」も代表曲。
かっこいいから、是非聴いて欲しい!

フィールグッドの音楽的ルーツであるアメリカ南部のR&B、ここにありです。

70年代初頭の当時のイギリスでは、ビートルズの解散もあってロックが次のフェーズに移ってた時期。
シンセサイザーがメインのプログレッシブ・ロックが主流になって、アーティスティックな演出と長尺な楽曲が隆盛を極めてました。

そんな中で、フィールグッドは無骨なR&B(リズム・アンド・ブルース)に回帰。
パブロックというジャンルを旗印に、酒場やクラブで汗まみれのライブを縦横無尽に繰り広げまくるわけさ。

イギリスに無数に存在する、「パブ」。
居酒屋やバーを指す、「パブ」。
でもこれね、日本でいう所とは少し意味合いが違って、ただの商業施設じゃないんだよね。
各地域の社行場であって、サロンっていうか集会所みたいな役割を果たしてた。
そこに、小さなステージがある。
けれど客席は当然スタンディングじゃなくて、テーブルに椅子。
音が騒音にならない、アコースティック・ライヴが当たり前だった。
そんなパブの中に、エレクトリック、つまりはロックに特化した店が現れ始めて。
今でいうクラブやライヴハウスみたいな役割を果たしたことが、結果的に新たな音楽シーンの発生と拡大に貢献していく。

ここに、パブロックとフィールグッドが誕生したってわけ。

そしてこのムーブメントは、後のパンク・ロックの萌芽とも言える、DIY精神と生々しいリアリズムを宿してた。
地元の湿った空気と、60年代にストーンズやザ・フーがプレイした、アメリカ南部のR&Bをルーツとしたロックンロールが、深く刻み込まれていくことになります。

※ローリング・ストーンズについては、こちらもどうぞ

楽曲解説

まずは、代表曲①。
もう、これで決まり!ってやつでしょう。
ウィルコの切れ味のみの鋭利過ぎるカッティング、リーのスモーキーでしゃがれたボーカルは、これぞ労働者階級のブルース。
1発のみのギター・リフ、余計なことは何もしないリズム隊。
曲の構造はシンプルだけど、そのシンプルさこそがフィールグッドの真骨頂。
考える必要なんかない、感じるのみ。
全ての人の腰を揺らしてしまうこの快感と興奮には、もはや包容力すら感じてしまうぜ!

続く②は、アメリカのブルースマン、「キング・オブ・ブギ」ことジョン・リー・フッカーの代表曲。
フィールグッド流にスピード感と攻撃性を加えた、秀逸過ぎるカヴァーです。
原曲の持つ重厚なグルーヴを軽妙に切り裂く、ウィルコのギター。
緊張感を放つ、リーのブルースハープ。
とにかく上手すぎ、色気ありすぎ。

ポップ・センスもあるんだぜとばかりの③を挟み、これまた代表曲④。
フィールグッドのライヴ・パフォーマンスといえば、上下に拳を振るリーのボーカルに対して、前後左右にロボットみたいに水平移動しながら、マシンガン・ギターを撃つウィルコ。
そして、何もしないリズム隊(まだ言う)。
何もしないってのは勿論、褒め言葉です。
難しいことは要らない、シンプルにリズムを刻むのみ。
その象徴がこの④、もう大好きすぎるわー。

そしてB面では、バンドのブルースへの深い敬愛がさらに明確になる。
⑧や⑪は、その実直さゆえに時代を超えた説得力を持つし、どっかりとしたリズムにヒリ付いたギターとボーカルが乗っかる⑨は最高に痺れる。
特筆すべきは、地元の孤独と焦燥を感じさせる⑩。
ロードムービー感があるっていうか、キャンベイからロンドンへ向かう車窓が浮かぶんだよねぇ。
単なるバッキングにとどまらず、楽曲全体を支配するギターが良い。
ノンエフェクトのギターとタイトなリズム・セクションが印象的で、何の装飾もない「裸のロックンロール」がここにあります。

影響と遺産

ロンドンのジャクソン・スタジオで、一発録りされた今作。
モノラル録音でリリースされた点も、このアルバムの「逆行的な美学」を物語ってます。
そもそもね、ジャケもモノクロなスナップ風で、武骨な4人の面構えを真正面から。
衣装も、ボーカルは白で残りは黒系の安物のスーツちネクタイ。
そこに、8ビートを主体にしたサウンドだもん。
正に、ルーツへの敬愛。
ロックンロール先祖に回帰、の極み。

まるで1950年代のブルース・レコードを現代に蘇らせたかのようなサウンドは、当時としては異端でありながら、鮮烈な個性を放っていました。
今作全体に通底するのは、スタジオで録音されたにもかかわらず、ライブ感と即興性が極限まで引き出されていること。
これは、プロデューサーのヴィック・メイルの功績でもあるけど、それ以上にフィールグッドの「現場主義」が大きいんだよね。
彼らにとって、音楽とは理論や技巧ではなく、その場で生まれる熱量だった。
生音、アティチュード、それはライヴ・バンドそのもの。

セックス・ピストルズのジョン・ライドンもクラッシュのジョー・ストラマーも、フィールグッドのライブに衝撃を受けて、バンドを結成する一因になったって語ってます。
それは勿論、日本でも。
シーナ&ザ・ロケッツの鮎川誠も、ミッシェルのチバユウスケも、今作を聴いた瞬間に「これだ!」って確信したって。

また、フィールグッドのストリート・スマートな哲学。
ライフスタイルがそのままサウンドに表れた、洗練とは無縁の荒々しさは、ロックンロールの原点である衝動を再提示したことでも重要だし。
この、「粗削りな質感」。
完璧とは言いがたい演奏、決してクリアとは言えないサウンド、そして泥臭いボーカル。
これこそ、無垢ってやつじゃないかい?
テクノロジーやマーケティングに彩られた現代音楽シーンにおいても、このフィールグッドの初期衝動は、今もなお強烈な光を放ってると思うもん。
マシンガンだから、弾丸か。

あとは何度も言うように、ウィルコのギター・スタイルが後進に与えた影響だよね。
ポール・ウェラーやジョニー・マー、フランツ・フェルディナンドのアレックス・カプラノスは、口を揃えてウィルコの革新性を語ってます。
とりわけ、コードとリードを同時に奏でるその独自の奏法は、ギター・ロックの可能性を無限に広げたって言って良いくらい。

そんな彼らの存在は、アーティスティックで難解にどんどん複雑化していく70年代中盤のロック・シーンに対して、鋭いカウンター・パンチになりました。

あ、締めに行く前に、もうひとつだけいいっすか?
オリジナル盤には収録されてなくて、後に発売されたデラックス版で聴ける、この曲。
これまたアメリカのR&B、ジャズのスタンダードなんだけど、このカヴァーがフィールグッドの中でいっちゃん好き!
「ルート66」、チャック・ベリーもストーンズもカヴァーしてるけど、フィールグッドのが1番だぜ!

余談

使用楽器

・フェンダー・テレキャスター

ウィルコといえば、もうこれだよね。
フェンダーの、テレキャス。
ブラック・ボディに、赤のピック・ガード。
奏法はピッキング命だから、その激しさからライヴの度に毎回指から流血しまくり。
どうせギターが赤く染まっちゃうなら、いっそ赤く塗っちゃおうってなエピソードは、余りにも有名です。

最後に

「ロックンロールって、こういうことだろ」ってな、基本中の基本のど真ん中を突き進んだバンド、フィールグッド。
でもパブロックのアイコンにして、パンクの導火線として火付け役となった彼らは、実は世界的にそんなに評価が高くないんだよね。
日本では人気あるけど、それはやっぱりミッシェルの存在が大きくなり過ぎたからってのがあると思う。
リスペクトしまくりでフィールグッドの来日公演の前座務めたり、常にメディアで語って宣伝部みたいになってたから笑。
それで知って、じゃあ聴いてみようってなったリスナーやロック・キッズがほとんどなんじゃないかな。
筆者も、そのひとりです。

同じように短命で終わった、今作のちょっと後にデビューしたロンドン・パンクの伝説的なバンド達に比べて、明らかに過小評価されてるのが悲しい。
「世界最強のローカル・バンド」だなんて、寂しい。
でも、鋭いのに太いギター・サウンドに、男気溢れるドスの効いたボーカルと、タイトで重いビートを引っ提げたフィールグッドが居なかったら、その後のロック・シーンの変革はなかったわけで。
今作があったから、行儀良くてお利口になりつつあったそれまでの時代は終焉を迎えて、再び猥雑な輝きを取り戻したんだよ。

例え世界的な評価は低くても、その事実は変らない。
それは、成功したかとか業績とは、全然関係のないことだもん。

単なるデビュー作、単なる名盤以上の意味を持つアルバム。
音楽が本来持っていた、生の感情。
それを剥き出しにした記録であると同時に、ロックンロールがどこから来て、どこへ向かうべきかを鮮明に問いかけたのが、今作だったんだよ。
そしてそれは、ピストルズやクラッシュ、ジャムといったロンドン・パンクへと引き継がれていったのさ。

今回も最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
それではまた、次の名盤・名曲で。

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この記事を書いた人
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Kazuki

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