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日本が誇るリアル・ロック・モンスター、「世界の終わり」は全ての始まり。

日本が誇るリアル・ロック・モンスター、「世界の終わり」は全ての始まり。

目次

Thee Michelle Gun Elephant/cult grass stars

1996年作品

収録曲

①トカゲ
②strawberry garden
③キング
④世界の終わり
⑤toy
⑥ブラック・タンバリン
⑦I was walkin’ & sleepin’
⑧Dallas fried chicken
⑨アンクルサムへの手紙
⑩スーサイド・モーニング
⑪いじけるなベイベー
⑫眠らなきゃ
⑬remember Amsterdam

チバユウスケ(以下、チバ)が亡くなって、もう1年半くらい経ったね。
早いなぁ。
昼に速報が飛び込んできて、その直ぐ後に友人知人からたくさん連絡が来た。
みんな、思うことは一緒だなぁなんて、ぼんやりしたことを覚えてます。

遡ること、2009年。
アベフトシ(以下、アベ)が亡くなった時、筆者はちょうどフジロックに参戦してました。
オアシスとDJバクがお目当てで行って、勿論The Birthdayも。
そうしたらこの時も、友人知人から連絡が来て。
びっくりしてたら、次の日だったかな。
グリーン・ステージで、The Birthdayのライヴが始まって。
チバが、「捧げます」みたいなこと言って。
その後から、あんまり記憶がないっていうか。
なんか、ぼんやりしながらライヴ見てたな。
ぼんやりばっかり。
リアル・ロック・モンスターの異名の如く、ライヴ・バンドといえば、ミッシェル・ガン・エレファント(以下、ミッシェル)。
この方程式は、当時の音楽シーンをリアルで体験した人なら異論はないんじゃないかな。
何かと比較されがちだったブランキー・ジェット・シティが解散した後は、特にそうだったと思う。
あとはミッシェルに任せた!みたいな。
オーディエンスの状態が、もう熱狂が過ぎるってくらいだったし。

その圧倒的なライヴ・パフォーマンスで、日本のロック・シーンの頂点に君臨し続けたミッシェルが、メジャー・デビューしてから今年で30周年。
いつか書きたいなと思っていたので、今回はそのデビュー作を書きたいと思います。

 

このブログでは毎回、オリジナルのアナログ盤を基に書いてきたんだけど
ミッシェルは、マーケットとしてCDが全盛の時代に、アナログでも是非聴いて欲しいっていう強い拘りのあるバンド。
まさに、ロックンロール・バンド。
なのでマキシ・シングルもアルバムも常に、アナログとCDの同時発売。

12インチだけじゃなくて勿論7インチもあり、別バージョンも満載。
要は、粋な洋楽マニア。
曲順やジャケも、違ったりするし。
 

今でこそさ、通常盤と限定盤があって、タイプもAからCまであって・・みたいなのは当たり前かもしれないけど。
当時は、珍しかったんだよね。
別バージョンを収録なんてなくて、あってオリジナル・カラオケとか。
アルバムも、とりあえずこの期間に出したシングルとカップリングの寄せ集めとか。
このシングルやアルバムでしか聴けない、ってなかなか無かった。

だからミッシェルのアルバムって、アナログとCDで収録曲がちょっとだけ違ってたりするんだよね。

ミッシェルのアナログは、現在では中古市場で高値で取引されてて。
今回の30周年企画で再発されたけど、それも完全限定生産で、手に入らなかった人もいるだろうから。
なのでこのブログでは、CDの収録曲に準拠します。

ミッシェル結成から、今作誕生まで

1991年に明治学院大学の軽音サークルで、チバ(Vo)を中心にして結成。
結成当時のメンバーはチバ以外は脱退、その後クハラカズユキ(Dr、以下キュウ)、ウエノコウジ(Ba、以下ウエノ)の順に加入しました。
これが原型となって当時のギタリストと4人編成で、⑥などのキャリア初期の代表曲を生み出していく。
少しづつ活動が波に乗り始めて、敬愛するウィルコ・ジョンソンの来日公演の前座を務めたりしたけど、ギタリストが脱退。

そしてここで最後のピース、アベ(G)が加入してミッシェルが誕生します。

※ドクター・フィールグッドについてはこちらもどうぞ

ミッシェル・ファンならね、4人(特にチバ)のルーツってもうかなり有名じゃん。
ミッシェルが売れて、雑誌やラジオでその影響を散々語ってたからさ。
海外行ってこのレコード買ってきました、みたいなコーナーもあったし笑。
クラッシュやザ・ジャムやダムド、ラモーンズにジョニー・サンダース。
ローリング・ストーンズやThe Who、ジミヘンとかは、ある程度洋楽好きなら、ミッシェル関係なくみんな知ってたけど。

ミック・グリーンのパイレーツとか、ドクター・フィールグッドがこんなに日本で売れたの、絶対ミッシェルが一役も二役も買ってるからだもん(あくまで個人の感想です)。
影響って凄いね、本物の才能は埋もれないでほしい。
ちなみにチバは大学時代に金髪のマッシュルーム・カットで、「俺はブライアン・ジョーンズだ」って言ってたとか笑。
誰にだって、若かかし頃はあるもんですよ。

※ブライアン在籍時の、ローリング・ストーンズについてはこちらもどうぞ

※ジョニー・サンダースのギターが炸裂、ニューヨーク・ドールズについてはこちら

そんなミッシェルは、R&B、ロカビリー、パブロック、パンク、モッズ、リアルタイムで聴いた日本のめんたいビートから、80~90年代のイギリスのロックまで、丸呑みするように咀嚼。
その影響を、色濃く自分達のロックに反映していきます。
そんなバンドは星の数ほどいるんだけど、ミッシェルが他と違ったのはただの物真似で終わらなかったこと。
先人達のロックンロールの時間軸を自分達のセンスで解釈して、強引に捻じ曲げちゃったとこに魅力があると思ってます。
それが独自のサウンドと強力なビート、圧倒的なグルーヴを生んだ根幹なのかなって。
メロディーも、とってもキャッチーだし。

それを武器にインディーズ時代を経て、1996年に満を持してメジャー・デビュー。
あくまで、一発録り。
生々しくてタイト、それでいながらワイルドでローファイな質感。
それが、今作です。
この時点で既に自分達の明確な世界観が確立されてることに、驚いちゃうよね。
実際、解散までこの基本はずーっと変わらないし。

代表曲④を含む、伝説の始まりです。

楽曲解説

まずは、解散ツアーでも度々オープ二ングを飾った、イントロからギターが炸裂する①。
パブロックよろしく!っていうね笑。
初期のThe Whoばりの切迫感と、ドクター・フィールグッド直系のグルーヴの共存。
いきなりミッシェルの全てが凝縮された開幕曲です。

いちごは木になる物、っていう勘違いも可愛い②。
チバってあんな見た目だから近寄りがたいんだけど、こういう可笑しみっていうか人間臭さも魅力だよね。
日本人アーティストとして初のトリを務めた、2000年のフジロック。
「GT400」の時の、MC大好き笑。

(チバ)「今日、単車で来た奴!」
(客)「イェー!」
(チバ)「気をつけて・・、うん・・」

これ、最高。

アベのカッティング1発で決まり、フレーズもコーラスも十八番な③。

ギターフレーズにストーン・ローゼスやプライマル・スクリームといった90年代イギリスの影響も垣間見える、サイケな味わい⑤⑧⑫。

キャリアを通じてライヴでも定番の⑥⑦は、ザ・ジャムそのまんま。

わずか43秒のインスト⑧は、アルバムの表情を切り替える重要な役割を果たしてます。
チープな音作りと奇妙なエフェクトは、明らかに意図的だし。
このくすぐるような違和感こそが、聴き流せないインターミッション。
こういうのを入れてくるのが、粋なロックオタクだなってニヤリとしちゃう。

後にチバとキュウで結成する、The Birthdayのアンコールの定番曲「ローリン」を思わせる⑪。

そしてラストを飾るのは、2発目のインスト⑬。
サーフロックなエッジの効いたギターに、浮遊感漂うオルガンが見事にマッチ。
それを支えるリズム隊もひたすらグルーヴィで、言葉(歌詞)なんてなくてもとにかく痺れまくり。
「音で語る」ってな美学よね。
カッティング、ワウ、とにかく早い笑!
アクション超大作のスパイ映画っていうかさ、サントラとして聴きたいぜ。

「世界の終わり」と、ミッシェル・ガン・エレファント

メジャー・デビュー作となる今作では、ミッシェル絶頂期から晩年まで、聴いたら一発で分かるチバの特徴的なしゃがれたボーカルが、まだ若い。
リズム隊も、とぐろを巻いた蛇みたいなヘヴィでタイトな感じも、まだ若い。

ただ、アベのギターだけが、もう既に完成されてるんだよね。
ミック・グリーンとウィルコ・ジョンソン直系でありながら、「アベ節」とも言えるオリジナリティを加えたあの高速カッティングだけは。

このギターがミッシェルをミッシェルで在らしめてきたし、この人のギターはここからもずーっと変わらない。
とんでもない数のライヴ・ツアーを重ねていくことで、サウンドの表情がよりエモーショナルになってはいくけど。
基本は、変わらない。
アベとスタジオに入って初めてセッションした時に、一音で「これだ!」って3人同時に直感したギターが、いきなり今作で聴けます。

なんていうのかな、正直で頑固な人柄が出てる音なんだな。
これしか弾けません!みたいな。
とんでもなく、上手いギタリストなんだけどさ。
本人も、「俺はミッシェルでしか活きない」って言ってたし。
モラトリアムな音、っていうのかな。
実際、ミッシェルが解散する前から、チバもウエノも別のバンドを結成するし。
キュウも、ミュージシャンズ・ミュージシャンとしてサポートに回ったり。
でも、アベだけがそういう活動しなかったもんね。
するようになったのは、ミッシェル解散後。

考えすぎかもしれないけど、これがアベだったんだろうなぁって。
ミッシェル以外、興味なかったんだろうなぁって。
やっと見つけた、自分の好きなことが出来る場所。
その好きなことを、理解してくれるメンバーに出会えた場所。

そんなミッシェルにとって、言い方があれかもしれないけどさ。
なんか、呪いがかかってるみたいな。
強烈な、呪術みたいな。
その象徴が代表曲の④、「世界の終わり」だと思う。

歌って、曲って生き物なんだなって。
アレンジが違うとかテンポが違うとかじゃなくてさ、どんどんどんどん、ライヴで進化していったのがこの④。
歌詞もメロディも同じなのに、聴いてて受け取る感情が、重く苦しくなっていく。
その先にある終わりの風景が、唯一無二のロックンロールだって分かっていても。
幕張メッセでの解散ライヴ、アンコールでの最後の曲。

ああ、やっぱり最後はこの曲なんだなって。
もう、別人だもん。
もう、別曲だもん。

チバ、声が出なくなるなよ。
搾り出そうにも出てこない言葉、圧し掛かる感情。
喉の限界を超えた限界に、潔く散るなよ。
アベ、弦が切れるなよ。
無口な男が、最後の最後でたった一言。
「ありがとう」、はずるいよ。

余談

「世界の終わり」と、もうひとつの物語

ここでひとつ、伝説的な名曲には必ずある、小説よりも奇なりなエピソードを。

同じく日本を代表するロック・バンド、ザ・イエローモンキー(以下、イエモン)とミッシェルは、時期は違えど同じ「トライアド」っていうレーベルに在籍してて。
そこには中原さんっていう、敏腕プロモーターがいました。

イエモンの代表曲「JAM」を、レコード会社上層部の反対を押し切って、大ヒットに繋げたのがこの方。
カットされたら曲の魅力がこれっぽっちも伝わらないからと、歌番組でフルコーラスの枠を勝ち取って来たのもこの方。
所謂、盟友の間柄。
イエモンがレーベルを移籍する時、この中原氏を一緒に引き抜こうと誘ったんだけど。
そらそうでしょ、敏腕なんだもん。
でも、断られて。
俺はイエモンを超えるバンドを絶対見つけて、売り出してみせる!」って言われて。

それを有言実行して世に送り出したのが、ミッシェルだったんだよね。

吉井和哉が自伝で書いてるんだけど、「やっぱ中原はすげえなぁ、負けたな」って。
そして2000年、中原氏は急死してしまいます。
そんな吉井和哉が、イエモンもミッシェルも解散しちゃった後の2015年、中原氏とミッシェルに愛を込めて④をカヴァー。
泣いちまうぜ!
うん、泣いた!

人の縁ってさ、不思議だよねぇ。
とっても、大切だよね。

使用楽器

グレッチ・シルバー・ジェット

アベのギターといえば、テレキャスターがトレードマークだよね。
ミック・グリーンと、ウィルコ・ジョンソンに敬愛を表して。
なんだけど、実はフェンダー製じゃないんですよ。
松下工房で作った、オーダーメイドのテレキャス。
これを、差異性を求めつつ5号器まで(5本)所有してました。
今作で使用したのは、当然1号器。
 
でもあえてここでは、あまりイメージの無いグレッチのシルバー・ジェットを取り上げたいと思います。
①④のレコーディングで使用。
PVでも確認できます。
ただこの後、盗まれちゃったので消息不明。
盗んだ奴、返しに来い!
身の丈考えろ、おまえにはもったいなさすぎなんだよ馬鹿野郎が。

最後に

前述した、商業比率を無視したアナログの同時発売もそうだけど。
他にも、オーダーメイドのモッズ・スーツにピンカールのシールド。
歌なしの、インスト曲も好んでレコーディングして発表したり、ライヴでも定番にしたり。
とにかく、ビジュアルもアティチュードも、ロックンロールの先人達へのリスペクトに溢れてる。
ロックンロール馬鹿な、唯一無二のバンド。
 
今作は、「考えるな、踊れ!」ってな若くて青い仕上がりだけど。
「これが俺達だ!」っていうさ。
歌詞も、意味というよりは音を大事にした結果だし。
ストーリーがないっていうのかな、いやあるんだけどさ。
そのチバの詞の世界は、次作「High Time」から少しづつ、映画のような物語性を帯びていきます。
その主人公達に、生命を吹き込んでいくんだよね。
リリィ、ルーシー、ビリー、ジェニー、ブライアン、アンジー、ケリー、サンディー、マリア、リリカとルチーノ・・。
 
ビジュアルも、この頃はまだオシャレなスーツだったり、カジュアルだったり。
黒のモッズ・スーツは着ても、中は白いシャツだったり。
これが段々と、全身が細身の漆黒に変わっていきます。
ミッシェルの一般的なイメージって、これなんじゃないかな。
キュウのモヒカンも笑。
あれ、良く見つけたよね。
めちゃくちゃ似合ってるし、モヒカン前のキュウって童顔なのもあって、お坊ちゃんみたいだし笑。
 
でも何よりも圧倒的なのは、やっぱり演奏技術とバンドの一体感。
ライヴハウスでしのぎを削りまくった、地力だよね。
デビュー前から、ライヴ・バンドとしての叩き上げてきた、キャリアと実力。
生の観客こそが、一番厳しい批評家なんだもん。
ライヴっていう生き物、その場その場で作っていく生の音とグルーヴ。
出来たばかりの新曲を発売前にライヴで演ってみて、そこで偶然生まれたフレーズや感触を。
改めて、レコーディングに活かしてみたり。
ハプニングなんて当たり前、生の現場でこそどう表現するか。
ミュージック・ステーションでの、急遽穴埋めをした有名な逸話なんて、まさにそうでしょ。
 
現在は、そんなにライヴ活動もないのにそれっぽい曲を書いて、最新技術でササッと仕上げたりとかさ。
メディアのプロモーションや、ボタンひとつで共有できるツールを使って、ひょいっと人気者になったり。
時代としては、良いことなのかもしれないけど。

なんか、権力を持つごく僅かな大人達が、売り出すと決めればそれが正解みたいな。

でもミッシェルをはじめとした本物のロックンロール・バンドは、なんていうのかな。
自分達の代表曲とかヒット曲のイメージからは想像できない、懐の深さっていうか器のでかさがあるんだよね。
生には、やっぱり勝てない。
例えキャパが小さくてもステージがあれば、どこでもサヴァイヴしていける、圧倒的なロックの力。
同時に、ロマンチシズムも併せ持ってたし。
それがルックス的にも音楽的にも、図抜けてたなぁって。

ミッシェルはどれも名盤なので、また書きたいと思います。

今回も最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
それではまた、次の名盤・名曲で。

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この記事を書いた人
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