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必殺技を手にしたバンドは、べっちょりとした指で世界中を踊り狂わしたのさ。

目次

The Rolling Stones/Sticky Fingers

1971年作品

収録曲:A面

①Brown Sugar
②Sway
③Wild Horses
④Can’t You Hear Me Knocking
⑤You Gotta Move

収録曲:B面

⑥Bitch
⑦I Got The Blues
⑧Sister Morphine
⑨Dead Flowers
⑩Moonlight Mile
あれ、ジーンズ会社の広告かな?って初見で思ったのは、自分だけじゃないはず。
ただね、レコードだとそうじゃないのよ。
ど真ん中にファスナー(しかも安心のYKK製!)がついてるじゃありませんか(近年再発されたCDでも再現)。
ちゃんと、ジーって降ろせるじゃありませんか。
ファスナーひとつで、圧っていうか迫力が凄いぜ。
ってことはよ?その先には・・・あー良かったブリーフかぁ。
そらそうだよね、いきなりはないよね。
ってそんなんどうでもいいっすよね、失礼しましたー。
 
男性の股間の膨らみというワイセツなリーバイス505をジャケに冠した、ストーンズの大名盤のひとつ。
それが今作です。
筆者の周りだと、これをストーンズ・フェイバリットに挙げる人がいちばん多いかな。
 
印象的なジャケット・デザインは、ポップアートの先駆者アンディ・ウォーホルが手がけたもの。ストーンズだと、後に発売されるライヴ・アルバム「ラヴ・ユー・ライヴ」のジャケもこの人。
最も有名なのはやっぱり、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(&ニコ)のデビュー・アルバムじゃないかな。
通称、「バナナ・ジャケ」。
あれもね、説明書きで書いてあるもんね。
ゆっくりとステッカーを剝がしてください」って。
これはバナナがステッカーになっていて、剥がすと果肉が現れるというもの。
今作のファスナーもそうだし、芸術とはワイセツな想像を掻き立てるもんなんですよ(暴論)。
 
このリーバイス505は1967年に発売されたモデルらしいんだけど、後にパンク・アイコンのファッションとして人気に火が付きます。
有名なところだと、なんといってもラモーンズ。
 
ラモーンズについては、こちらもどうぞ
 
ストーンズは音楽的にはパンク・バンドっていうカテゴリーには入らないけど、アティテュードって意味では、当然パンク。
当時、そして現在も、誰よりもパンク。
1970年代後半のパンク・ムーヴメントの時には、ピストルズやクラッシュに(やっかみと憧れから)目の敵にされたけど、そんなのストーンズ(特にキース笑)からすればヒヨコも同然。
結果論だけど、アンディ・ウォーホルの先見の明とセンスは正しかったんだよなぁ。
 
アルバム・タイトルも妄想を掻き立てるイヤらしさで、ブルージー・ロックの神髄を極めた大名盤を、紹介していきます。

大名盤「レット・イット・ブリード」発表後から、今作誕生まで

前作「レット・イット・ブリード」については、こちらもどうぞ

ブライアンの追悼ライヴでテイラーを観客に初お披露目し、マジソン・スクエア・ガーデンでのライヴも大盛況。
ストーンズは、批評もセールスも好調な大名盤を引っ提げてライヴに明け暮れます。
それは再びブルースに根差したロックンロールを鳴らしまくる王者の姿ではあったけど、実はバンドは同時にハード・スケジュールにして過渡期でもありました。

それは、環境の変化。

それまでのレコード契約終了に伴って、まずは自分たちのレーベル「ローリング・ストーンズ・レコード」を立ち上げ。
こんな時は、往々にして全てを一新するもの。
ミックは、名刺代わりの新しいロゴ・デザインを探していました。
そこで大学院生だったジョン・パッシュに依頼して作られたのが、この余りにも有名なシンボル・マーク。
通称「舌と唇」です。
早速シングル①や今作のインサートに使用されて、現在まで続くストーンズのアイコンがここに誕生。
後のスタジアム・コンサートで、でっかいオブジェを作ってステージに設置するようにもなります。

続いて、レコーディング環境も進化。
トラックに録音機材を搭載した、移動スタジオまで作っちゃった。
もうね、発想がすごいよね。
資金力は勿論、創作意欲が旺盛なことを物語ってます。

これによってじっくり時間をかけた録音が可能になって、好きな時に好きなだけ楽曲制作が出来るようになりました。
自分たちが自由に使えるスタジオを持つって、ミュージシャンやバンドマンならみんな夢なんじゃないかなぁ。
毎回金払って、2時間コースを予約して。
でも楽器や機材の設置と撤去、明け渡しのタイミングとかもあるから、実質2時間丸々は使えないもどかしさが、貸しスタジオあるあるだもんね。

更にはこの移動スタジオは空調まで完備の徹底ぶり、何処に移動してもどんな土地や気候でも、作業に支障をきたさない。
この万能感は評判を呼んで、ストーンズが使用しない時はレンタル業まで始めて。
いやー、ビジネスの才覚にもほとほと感服です。
ZEP、ボブ・マーリー、ブラック・サバス、ディープ・パープルといった錚々たるメンツが借りて活用したらしいよ。

制作秘話だけで、ワクワクしてきたっしょ?
 
スウィンギン・ロンドンきっての暴れん坊だったストーンズが、様々な経験を経て大人になって。
アメリカだけじゃなくて(これだけでも凄いんだけど)、世界におけるロックンロール・バンドに自ら大化けした、今作。
それは自身のレーベルから、満を持して発表。
そしてこの移動スタジオとアラバマ州のマッスル・ショールズ・スタジオ、ロンドンのオリンピック・スタジオで着々と制作が行われて完成に至ったわけ。
 
全英・全米1位は当然のこと、他の国々でも1位を記録という快挙が、何よりもそれを物語ってます。

楽曲解説

ライヴでは必ず演ると言って良い、ストーンズの代表曲①。
個人的に、トップ5に入ります。
 
まさに「発明」と呼ぶに相応しい、キースの必殺技「オープン・チューニング」がここに炸裂。
これは本来6本の弦で鳴らすギターを、6弦を取り外して5本の弦にし、更にオープンGにチューニングするというもの。
オープンGチューニングでは、バレーフォームでメジャーコードを鳴らせる。
これ以降、キースのギター・リフ奏法はまさに唯一無二の象徴となっていくのさ。
ストーンズにもたらした、最強の武器といってもいいくらいの大発明。
間奏で、キースの悪友ボビー・キーズのサックス・ソロが耳を劈くようにバリッと入ってくるのもたまらない。
ボビー曰く、1テイクであっという間に仕上がったそうで、乗りに乗りまくってたんだろうなぁ。
アウトロのさ、「イェー、イェー、イェー、フォー!!」のとこでさ、両手広げて叫ばない奴なんているんか?
考えるなよ、感じちゃいなよ!

珍しくキースのギター参加はなし、テイラーのオリエンタルなのびのびしたギターワークが素晴らしい②を挟んで、カントリーロックを生み出した盟友グラム・パーソンズの影響も色濃い、ストーンズの数あるバラードの中でも特に有名な③。
それでもアクセントを持ったギターのカッティングと丁寧なドラミングが生み出すグルーヴが、正にストーンズ流だね。

ファンキーでジャジーな7分以上に渡る④は、テイラーのギターとボビー・キーズのサックス・バトルが展開されるアウトロが聴き所。
の後にこれを持ってくる感じ、配曲センスも素晴らしい。

エアロスミスも採り上げた、今作でのブルース・カヴァーはミシシッピ・フレッド・マクダウェルの⑤。
キースとテイラーのスライド・ギターをドヤ顔でフィーチャー、泥臭い仕上がりがドス黒く光ってA面が終了。

そして盤を引っ繰り返して、⑥。
これよこれ!
①に並べるの、つーか超えちゃってんのこれしかないっしょ。
筆者のストーンズ・ランキング、比類なき1位!
もうね、銀河ギリギリ!ぶっちぎりの凄いナンバーですよ!
悟飯覚醒、ボージャックなんてワンパンですよ。
これ聴いて何とも思わなかった人とは、絶対に友達になんてなれないぜ。
一緒に酒なんか吞みたくないぜ、こちらからお断りだぜ!
ファンク!ロック!パンク!
言葉なんか無粋だぜ!

ソウルフルっ言葉を、いつも思い出させてくれる⑦。
初めて聴いた時ね、あー遂に言っちゃったんだなぁ、「I Got The Blues」。
って、妙な感慨に耽ったのを覚えておりやす。
ストーンズにしか、言えないよなぁって。
月日が経てば経つほど、今になればなるほど。
聴く度に思います。
①④⑥の弾けたミックのヴォーカルも勿論素晴らしいけど、こういうところで聴けるエモーショナルなヴォーカルがたまんないね。

⑧のモーフィンとは、モルヒネのこと。
むせび泣くライ・クーダーのスライド・ギターを軸に静と動を行き来しながら、ムーディー・ブルースが展開していきます。
同時期に発表された、ZEPの代表曲「天国への階段」にも通じる気がする。

そして隠れた人気曲、カントリーロック⑨。
シンプルなコード進行と8ビート、これだけあれば他は何も要らない、のお手本ナンバーです。
なのに味わい深い奥行きが、ちゃんとあるし。
簡単に見せてるけど、絶対に出せないし演れないストーンズ・マジックの真骨頂。

ラスト⑩は、タイトルからしてロマンチックな美しいバラード。
一聴すると、ストーンズらしくないんだけどね。
艶めかしくてメロウで不思議な魅力を醸す、まるでロードムービーです。
終わって盤から針が離れて定位置に収納された後も、いつまでも余韻が続くこと間違いなし。

影響と、その後のストーンズ

ブライアン亡き後に、正式にギタリストとして加入したテイラーを迎えた第2期のストーンズ。
その再出発となったスタジオ・アルバムでもある、今作。
セールス面での成功もあるんだろうけど、その完成度にミックとキースも後々までお気に入りの1枚だと公言しているし、テイラーもストーンズに在籍して発表した(1974年作品「イッツ・オンリー・ロックンロール」まで)作品の中では1番好きとコメントしてます。

あとはね、やっぱ①で聴ける「オープンGチュー二ングの6弦なし」。
キースの代名詞になったこの大発明は、ストーンズをもう1段階格上げすることになったのは承知の事実。
音楽性としても、ステージでの魅せるエンタメとしても、ここから前代未聞の王道が拓けていく。
同時にね、弾いてんだか弾いてないんだかよく分からないキースになっていくんだけど笑。
テイラーや後のロニーという職人気質のギタリストが居てくれるから、キースは史上最高のリズム・ギタリストへと変貌していく。
おじいちゃんになって現在に至るまで、あのリズム・ギターはキース以外の誰にも弾けないのは周知の事実。
ただ、チンタラ弾いてるわけじゃないのよ。
チンタラ弾いてるんだけどさ笑。

こうして世界中が、ストーンズの意のままに踊り狂わされたってわけですよ。

余談

使用楽器

・ギブソン・レスポール・スタンダード(1959年製)

キースはお馴染みのBlack Beautyをメインで使用しつつも、今作では1959年製のギブソン・レスポール・スタンダードも使用。
1969年~1973年の間にテイラーと共に共有した1本です。
上記の①⑥のライヴ映像は1972年だけど、使用が確認できます。

テイラーは、ギブソンSGスタンダード。
ビグスビーの付いたこのギターは、1969年~70年の期間、テイラーの相棒として広く知られてます。

2本とも、ライヴ・アルバム「ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト」のジャケで使用されました。
チャーリーの左手に、レスポール・スタンダード。
お馬さん(ポニーかな?)の胸元に、SGスタンダード笑。

最後に

ブルースやソウルのR&B、カントリーやフォークといったルーツに飽きることなく何度も立ち返っては、そのまた根っこにあるアメリカ南部の土壌を掘り起こす。
それを齧ったり舐めたり嗅いだりしながら、様々な形で咀嚼しては吐き出し、消化して吸収して、筋肉に変えては排泄を繰り返す。
そうやって産み出されたものは、オリジナルの香りと味わいを残しながら、ストーンズ流としか言いようのないものに成っていく。

これこそが、まさにストーンズの流儀であって十八番にして真骨頂なんだな。
なんだけれど、今作には「ベガーズ・バンケット」「レット・イット・ブリード」にあったブルース特有の何かしらの暗さや悲しみが、あまり感じられないよね。
ルーツに遡行しながらも、結局は様々な異文化に共通する岩盤に突き当たることを発見したような、そこから大胆に枝葉まで一気に抜き取っちゃって編み上げていくような。
とにかく、手際が鮮やかすぎて眩しいくらい。
前述した制作環境の変化もあって、前作までには無かった、自信からくる泰然自若とした余裕を感じさせる風格が、確かに在ります。

そしてこの自由で無敵の流儀が、次回作「メイン・ストリートのならず者」で、ある種の結実を迎えると個人的には思ってます。
勿論、筆者がいちばん好きなのが「メイン・ストリートのならず者」。
次回は、この「南部回帰志向の理想形」が炸裂するストーンズの1972年発表の大名盤を取り上げます。

今回も最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
それではまた、次の名盤・名曲で。

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この記事を書いた人
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