容赦なく歪んでいく白い光と熱は、愛と平和に牙を剝き、終わりの始まりを告げた。
目次
The Velvet Underground/White Light / White Heat
1968年作品
収録曲:A面
①White Light / White Heat
②The Gift
③Lady Godiva’s Operation
③Lady Godiva’s Operation
④Here She Comes Now
収録曲:B面
⑤I Heard Her Call My Name
⑥Sister Ray
※前作については、こちらもどうぞ
1stで成功を収めた新人バンドが、続く2ndで更なる飛躍をぶちかますぜ。
そんな野望を、勢いのままに簡単にやってのけてビッグ・バンドの仲間入りってのは、偉大なバンドのあるある話。
新曲の構想や作曲アプローチ、ライヴでの演奏レベルも、 あくまで1stの延長線からそこまで外れることなく、もう一回り成長した姿を見せつける ってのが定石だよね。
レコーディングの過程を、見直したりさ。
そんな野望を、勢いのままに簡単にやってのけてビッグ・バンドの仲間入りってのは、偉大なバンドのあるある話。
新曲の構想や作曲アプローチ、ライヴでの演奏レベルも、
レコーディングの過程を、見直したりさ。
でもね、ヴェルヴェッツはまず1stが大コケ。
評価を盛り返そうと敢行したツアーでは、 見事に観客の無理解を買う。
そりゃそうでしょ、 ウォーホルに見初められて参加した前衛的イベント「 エクスプローディング・プラスティック・イネヴィタブル」は、 いわばホーム。
観客やスタッフのほとんどが、ウォーホル信者だったわけで。
観客やスタッフのほとんどが、ウォーホル信者だったわけで。
一方、ツアーで出会う観客はアウェー。
アレを理解しろって方が、難しいよね。
アレを理解しろって方が、難しいよね。
それでいながら、ヴェルヴェッツは前作を遥かに凌駕する、 めちゃくちゃ挑戦的で更なる刺激を求めに行っちゃうわけよ。
しかも場所は勿論、聖地ニューヨーク。
前作が認められなかった苛立ちと憤りもあるだろうけど、 それでもぶっ飛びすぎでしょ。
深く歪んだディストーションに、唸りながら火を噴くギター、 そして単純と簡素のみのリズム。
こうやって書くと何となく想像はつきそうだけど、 いざ聴くと意図して出せる音ではないことに腰が抜ける。
それでも人為的に意図的に、 この絶対不可避な爆発を生み出しちゃった。
偶然ではなくて、必然的に。
しかも場所は勿論、聖地ニューヨーク。
前作が認められなかった苛立ちと憤りもあるだろうけど、
深く歪んだディストーションに、唸りながら火を噴くギター、
こうやって書くと何となく想像はつきそうだけど、
それでも人為的に意図的に、
偶然ではなくて、必然的に。
そして結果的に、自らの首をしめることに。
第1期ヴェルヴェッツを崩壊へと導くことになってしまった、 悪名高い名盤のお話です。
第1期ヴェルヴェッツを崩壊へと導くことになってしまった、
前作「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ」発売から、今作誕生まで
前作制作中から、プロデューサーのウォーホルと次第にソリが合わなくなってきたヴェルヴェッツは 、発売後に関係を清算。
それと同時にニコも脱退、 やっとやりたい事だけをやれるぜと、鼻息荒く今作の制作へ。
そしてこれは、2巨頭のルー・リード(以下、リード)とジョン・ケイル( 以下、ケイル)の、 エゴという名の感性が真正面からぶつかることを意味していた。
それと同時にニコも脱退、
そしてこれは、2巨頭のルー・リード(以下、リード)とジョン・ケイル(
売上不振とツアーの失敗から模索したことは、1stではバンドの魅力が伝えきれてないんじゃないかと。
要は、ライヴのサウンドをスタジオで完全再現することだったんだよね。
要は、ライヴのサウンドをスタジオで完全再現することだったんだよね。
ポップなメロディの原型はそのままに、 名刺代わりの武器であるディストーションとフィードバックの雨霰 。
つまりは性急なリズムとノイズが縦横無尽に乱れ飛ぶ饗宴を、 そのままレコードに刻み付けようぜ!がコンセプト。
でもそれによってメンバーは心身ともに疲弊、 使い倒した機材もボロボロの状態だったとか。
だってね、現在ならコンピューター技術があるわけだけど。
当時はそんなもの一切なし、録音技術的にも無理があった。
それでも刻み付けようとした結果、 後に「やり過ぎた」と認める程の、混乱と混沌が産声をあげる。
それを可能にしたのは、まずは即興演奏。
全曲がほぼ通しの状態で録音されて、当然歌入れも同時進行。
徹底したライヴ形式で突貫工事、よくそれで⑥とか演れたよね。
17分あんのよ笑?
こうして、それぞれが「自分が一番大きい音を出す」 ことを競い合いながら、 ありったけの機材を持ち込んでレコーディングされた今作は、 まさに一色触発(特にリードとケイル)。
音の業火で炎上したようなスタジオ内で、不鮮明で退廃的で、 鈍く美しいカオスがレコードに刻まれたのさ。
そして勿論、リードが紡ぐ歌詞は、前作よりも更に過激に。
人間と時代の暗部を、暴いていく。
楽曲解説
まずは、アルバム・タイトル曲①。
初めて聴いた時、前作の代表曲「I’m Waiting For The Man(僕は待ち人)」と、 何が違うのかなって思ったけど笑、リズムもリフも。
同じドラッグ・ソングだし。
全然違うのにね、すみません。
ひたすらに繰り返される、呪文のような「ホワイト・ライト、 ホワイト・ヒート」。
節なんか全くなくて、「僕は待ち人」はまだ「歌」 の体を示してたもんね。
この曲はなんだろうな、 無機質にどんどん壊れていく感じっていうか。
聴いてて怖さを感じるのは、断然こっち。
ラストで、ケイルのベースがヘロヘロになるんだけど。
これは単純に、手が疲れてしまったとのこと。
レコーディング中の、とてつもないテンションを物語るエピソードです。
これは単純に、手が疲れてしまったとのこと。
レコーディング中の、とてつもないテンションを物語るエピソードです。
デヴィッド・ボウイのカヴァーも、グラマラスでドラスティックでかっこよすぎ!
朗々と語るポエトリー・リーディング②、詠み手はケイル。
最初から最深なのに、どこまでも淡々と沈んでいく
「詩を聴くことに飽きたら、次は音楽を聴けばいい」というコンセプトで、ドローン(無調)・ミュージックの走りと言える、ケイルの才能が炸裂する。
「詩を聴くことに飽きたら、次は音楽を聴けばいい」というコンセプトで、ドローン(無調)・ミュージックの走りと言える、ケイルの才能が炸裂する。
個人的には、代表曲①⑥よりも印象に残るなぁ。
歪みまくってるリード・ギターが、 シンプルなルートをなぞりながらしっかりとメロウなのも美しいし。
時折入る、ハウッたようなピーガーの金属音は、聴く度に毎回「 ひゃあっ」ってなる笑。
2コードなのに、ここまで展開出来ることにほんと脱帽するよね。
③のゴダイヴァとは女性の名前で、
伯爵夫人の彼女は、
すると伯爵が出した条件は、「裸になって馬に乗り、
ゴダイヴァはすぐに実行して聖母と称えられた、
リードがどうしてこういう詩を書いたかは不明だけど、 これが天才のインスピレーションなんだろうね。
コンプレックスと欲望の果てに、 性転換手術を受けるゴダイヴァ夫人。
医者がメスをゆっくりと外して、手術が失敗に終わると同時に、曲も終わる。
医者がメスをゆっくりと外して、手術が失敗に終わると同時に、曲も終わる。
ボーカルは、ここでもケイル。
ポエトリー・リーディングではなく、しっかり(?)と歌う。
リードとはまた違った、味のあるボーカルも中毒性あり。
リードとはまた違った、味のあるボーカルも中毒性あり。
中盤から合いの手で入るリードのボーカルで我に返って、再びケイルのボーカルで物語に引き戻されていく。
②③は、「音楽と物語の究極の融合」を目指したんだって。
そして立ち位置が素晴らしい、屈指のバラード④。
A面の終わりがこの曲で、なんか安心する笑。
ニルヴァーナも、カヴァーしてます。
ほっと一息っていうか、 一息ついて盤を引っ繰り返すと大変なんだけど笑。
とにかくね、聴いてて疲れるっていうか、 気力と体力が要るアルバムなのよ今作は笑。
全6曲っていうサイズ、大正解。
そんなB面の始まりが、イントロでいきなり腰が抜ける⑤。
粗削りなスピードと、終始耳を劈くギター。
機関銃での銃撃戦の戦場にいるような錯覚は、もはや恐怖。
機関銃での銃撃戦の戦場にいるような錯覚は、もはや恐怖。
それなのに、サーフ・ミュージックやドゥ―・ワップなコーラスが見事にマッチしてるのが面白い。
ギターソロもさ、ただの先進的で暴力的なノイズの壁に止まらずに、しっかりと調和性があるところもポイントです。
ギターソロもさ、ただの先進的で暴力的なノイズの壁に止まらずに、しっかりと調和性があるところもポイントです。
ラストは、押し寄せるあらゆる感情がサイケデリアとメランコリックを引き連れて、宇宙の果てで爆発する⑥。
もはや、ジャズですよ。
否、サイケでもプログレでもジャズでもない。
名付けようがないって表現が、一番正しいかも。
冷酷な単調さが、不気味なリアリティを帯びていく展開がとにかく鳥肌モノ。
ルー・リードの十八番カッティングがこれでもかと炸裂し、 この後どうなっていくの?が延々と続く17分間。
ライヴでは、10分程に短縮したテイクもあれば、40分近くも演ったテイクも存在します。
影響と、その後のヴェルヴェッツ
ファズと混沌に満ちたサウンドは、 バンド内の苦難と緊張感の反映の証。
それは勿論そうなんだけど、あくまでヴェルヴェッツがやりたいように演った結果、今作はこの世界に産み落とされた。
でも今作もまた、当時の評価は芳しくなかったんだな。
まぁ、ヴェルヴェッツはどのアルバムもそうなんだけど。
しかも前作の不評とはまた一味違って、 何が良いのか分からないっていう単純な無理解ではなかったんだよ ね。
時は1968年、ラヴ&ピースの時代。
サイケでアシッド、根拠なき幻想に誰もが酔いしれて、( ヴェトナム)戦争とか黒人差別といった現実世界の対立構造に、 ロックなら終止符を打てるって信じてた。
煌びやかでカラフルで浮遊感のある名盤がたくさん生まれて、 機運は1969年のウッドストックへ傾いていく。
そんな流れに、今作だもん。
愛と平和、反戦。
なんとなくその空気感に浸っていた人達からすると、 今作はもはやただの無理解ではなくて。
シンプルに困惑、更には生理的嫌悪の感情を呼び覚ました。
だってさ、ユートピアとサマー・オブ・ ラブの思想を否定されてるんだから。
なんで俺たち(私たち)のアイデンティティの、 息を止めようとしてんの?って。
こんな気持ち悪い歌詞を歌うことに、なんの意味があんの?って。
それくらい、今作のノイズ地獄の大饗宴は破壊力があった。
勿論関係者もそうで、ラジオではオンエアを拒否。
遂にはライヴ会場すら追い出されて、 ヴェルヴェッツはニューヨークを離れていく。
そして今作発売後の1968年秋、限界を超えたリードとケイルの関係は修復不可能に。
リードに追い出される形で、ケイルが脱退。
もしケイルが辞めなければ、自分が辞めるつもりだったらしい。
それでもね、デヴィッド・ボウイやストゥージズ、ラモーンズ、トーキング・ヘッズ、ソニック・ユース、ニルヴァーナに至るまで。
計測不能の影響を与えたんだよ、今作は。
計測不能の影響を与えたんだよ、今作は。
リードの詩にしたって、パティ・スミス、トム・ウェイツ、ロイド・コールにまで波及していく。
それから、ヴェルヴェッツを追われたケイル。
後に大名盤としてロック/パンク史に刻まれる、ストゥージズ「イギー・ポップ&ストゥージズ」、パティ・スミス「ホーセス」等をプロデューサーとして世に送り出すことになります。
後に大名盤としてロック/パンク史に刻まれる、ストゥージズ「イギー・ポップ&ストゥージズ」、パティ・スミス「ホーセス」等をプロデューサーとして世に送り出すことになります。
余談
使用楽器
・グレッチ、カントリー・ジェントルマン
セミアコタイプのギターを好むリードが、今作で主に使用したのがこれ。
ヴォックス製のトレブル・ブースターに直接繋いで、ガシガシと鳴らした⑤等でその音が聴けます。
ヴォックス製のトレブル・ブースターに直接繋いで、ガシガシと鳴らした⑤等でその音が聴けます。
狙って暴力的な音を出してやる!というよりは、スイッチを入れる度に甲高いノイズが生じるこの組み合わせが、 単純に楽しかったらしい。
そういう、中学生みたいな感情があって良かった笑。
殺伐とした雰囲気の中にも、ちゃんとロックンロールをプレイすることを楽しめたんだね。
最後に
リード、ケイル、スターリング・モリソン、モーリン・ タッカーの第1期メンバーで制作されたアルバムは、 今作のみ(1stは、ニコも含まれるため)。
低評価と無理解、 売上不振からの起死回生を狙ったヴェルヴェッツだったけれど、 苛立ちのままにあらゆるタブーに挑んだ先には、( あくまで結果論だけど)終わりの始まりが待っていた。
「比較対象なんてない、これに匹敵するバンドなんて他にはない」とリードが豪語した自信は、またしても打ち砕かれてしまった。
そして新メンバーのダグ・ ユールを迎えた、新生ヴェルヴェッツの次回作である3rdアルバム は、なんとフォーキーなバラード作品。
そしてまた、低評価の洗礼を受けてしまう笑。
って、笑っちゃいけないか。
何度も言うけど、 ヴェルヴェッツは活動中は最後まで評価されなかったからね。
ちなみに筆者は、 ヴェルヴェッツはどれも好きだけど3rdがフェイヴァリットです。
いつか書きますし、 実質的なラスト作品となった4thも書きたいな。
それでも、今作(特に⑥) がロックの新たな扉をこじ開けたのは間違いないわけで。
無機質で吹き曝しの荒野で鳴る、エレクトロニックのエネルギー。
けたたましく鼓膜を破壊し、 金属の味がするインタープレイの応酬。
耳障りの感覚が次第に麻痺してくる、不協和音の集合体。
この奇跡的で鮮烈な白い熱と光は、パンクは勿論、ヘヴィ・メタルやクラウトロックの誕生予告であると同時に、黙示録でもあったわけで。
とんでもないことですよ、これは。
結果的にヴェルヴェッツの終わりの始まりを告げたアルバムだけど、永遠に語り継がれる1枚です。
今回も最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
それではまた、次の名盤・名曲で。
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この記事を書いた人
Kazuki
合同会社Gencone GANNON運営代表
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