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即席、茶番、ヤラセの、偉大なるロックンロール詐欺事件が生み出したロンドン・パンクの旗手。

即席、茶番、ヤラセの、偉大なるロックンロール詐欺事件が生み出したロンドン・パンクの旗手。

目次

Sex Pistols/Never Mind The Bollocks(勝手にしやがれ!!)

1977年作品

収録曲:A面

UKオリジナル盤
①Holidays In The Sun(さらばベルリンの陽)
②Liar
③No Feeling(分かってたまるか)
④God Save The Queen
⑤Problems(怒りの日

収録曲:B面

⑥Seventeen
⑦Anarchy In The U.K.
⑧Bodies
⑨Pretty Vacant
⑩New York
⑪E.M.I.(拝啓EMI殿)
むかしむかしあるところに、マルコム・マクラーレン(以下、マルコム)という実業家がいました。
裕福な家庭に生まれ、アートスクールを卒業し、その後に商売のイロハを学んだこの男は、いつか自分が手掛けたロック・バンドが世界を席巻するという、野望を抱いていました。
 
時は1975年、貧困や人種差別といった社会問題に揺れていたロンドン。
イギリスのロック・シーンもまた、岐路に立っていました。
1960年代に、ビートルズやローリング・ストーンズを始めとしたレジェンド達が生んだ、ロックというカウンター・カルチャー。
その理想やアティチュードは徐々に薄れて、商業性や技巧性が求められる時代へと移行しつつありました。
まるでクラシック音楽のような、理論と実践こそが高尚だという認識が高まっていたのです。
 
そんな時代に、突如として現れたのがセックス・ピストルズ(以下、ピストルズ)。
 
ロックに、お上品な音楽的決まり事なんて必要ないだろ?

ロック如きがアートぶるとか、面倒くせえんだよ。

そんな若者達の燻ぶった感情が蔓延していることに眼を付けたマルコムが、その有能過ぎる戦術眼をもってバンドをプロデュース。
こうして誕生したピストルズは、後に「ロンドン・パンク」と呼ばれるムーヴメントを巻き起こします。
 
肥大化した音楽産業にスポイルされた、ロックの本来の姿を取り戻して。
ロックのダイナミズムを、俺達の手に取り戻そうぜ。
 
そして見事に成功を収めたピストルズは、その役割を終えるように。
たった1枚にアルバムを残して、僅か2年の活動期間で解散したのでした。
それはまるでロックの神様からの使いのような、神話のような物語。
 
今回は、そのピストルズが残した唯一のアルバムのお話です。
って言えば、かっこいいんだけどさ。
実際は、そんなこともなくて笑。
前にニューヨーク・ドールズでも書いたんだけど、ロックンロールやパンクって何だろうって考えた時に。
個人的には、偉大過ぎる詐欺だと思ってます。
 
※ニューヨーク・ドールズについては、こちらもどうぞ
 
 
いたいけな、少年少女を騙すもの。
それで、良いんです。
実際、筆者は騙されました。
そしてその後の人生、おかげさまで楽しく生きてます。
たくさんのかっこいいロックやパンクのレコードを聴きながら、幸せに暮らしてます。
 
すみません、話が逸れました。
ピストルズは、ロック史に刻まれた偉大なる犯罪者。
罪状は、詐欺(他にも、暴行とか王室批判とかあるけれど)。
元凶は、仕掛人のマルコム。
でも世間やリスナーを手玉に取って、結果的にロック史にその名を刻んだのは紛れもない事実。
いろんな意味で、今作ほど「名盤」って言葉が似合わないアルバムもないとは思いつつ。
 
「パンク」といえば真っ先に名前が挙がるアイコンとなった、ピストルズについてです。

ピストルズ結成から、今作誕生まで

両親が万引きしてるのを見て育ったというスティーヴ・ジョーンズ(G、以下ジョーンズ)は、札付きのチンピラ。
溜まり場は、「レット・イット・ロック」という名前のブティック。
マブダチのポール・クック(Dr)と、失業保険で生活しながら窃盗に明け暮れる毎日でした。
 
ローディーが居眠りしてた隙を狙って、デヴィッド・ボウイの機材車から盗んだこともあったとか。
あとは、キース・リチャーズの家に忍び込んで、機材を盗んだことも。
怖すぎる、すごすぎる笑。
ボウイはあれにしても、キースはまずいだろ。
この世でいちばん、喧嘩売っちゃダメなロック・スターだろ笑。
ルパン三世も、びっくりですよ。
 
そんな2人の救いは、全キッズに共通するようにやっぱりロック。
デヴィッド・ボウイ、ロキシー・ミュージック、T.レックスを好んで聴いてました。
そして、大して楽器も弾けないままバンドを結成。
これにブティックの経営者で、ニューヨーク・ドールズのマネージャーを務めたこともあるマルコムが眼を付けます。
店員だったグレン・マトロック(Ba、以下グレン)を、ベーシストとして送り込んだだけじゃなく。
ああしろこうしろと事あるごとに干渉して、ボーカルのオーディションを開催。
この時、アリス・クーパーの真似をしてカリスマ性を発揮、合格したのがジョニー・ロットン(Vo、以下ロットン)でした。
 
こうして結成されたピストルズは1976年、代表曲「アナーキー・イン・ザ・U.K.」でデビュー。
 
パンク・ファッションに身を包み、イギリス各地で揉め事を起こしていく。
このファッションは、所謂「テディ・ボーイズ・スタイル」を再解釈したものです。
スパイキーヘア(ツンツンに逆立てた髪形)、鋲付きの革ジャン、破れたジーンズにTシャツ、安全ピン。
誰もがパンクといえば思い浮かべる、あのイメージを確立したのもピストルズ。
 
店名を「セックス」と改名したブティックの商品を、衣装としたわけです。
勿論、店主はマルコム。
そのパートナーのカリスマ・デザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッドもバックアップに力を貸しました。
 
各地での暴動や、テレビ出演時の放送禁止用語の連発、ライヴでの客との喧嘩等、これも全て仕掛け人はマルコム。
更には、レーベルと契約→扱い辛さとリスクヘッジからレーベルが契約破棄、を繰り返すことで。
ガッポリと、違約金を手に入れることにも成功。
各地の地元住民から、ライヴハウスからの締め出しを喰らっては嚙みつき。
議員には、ピストルズを社会的に抹殺しなければ世界は救われないとまで批判されながら、ひたすらセンセーショナルな活動を強行。
 
デタラメで人を丸め込み、ハッタリが上手くて剛腕っぷりを発揮しまくる、マルコムここにあり。
自分でも、ペテン師を自認してるくらいだから笑。
チンピラという材料を使った、自分の作品。
何から何まで、思惑と戦略があってパッケージされた商品。
それこそが、ピストルズ。
 
そして話題をこれでもかと振り撒き、世間の沸点が達したところで満を持して。
1977年、今作を発表したのでした。

楽曲解説

全編に渡って、スリーコードが主体のシンプルでキャッチーなロックンロールが展開されます。
ラモーンズやクラッシュ、ダムドにあるような「これぞパンク」な速さもないし、オーソドックスだよね。
ニューヨーク・ドールズを参考にしたってのは、大いに頷けます。
筆者は初めて聴いた時、あまりのオーソドックスさに逆に驚いちゃって。
歌詞やパブリック・イメージからすると、もっと怖くて激しい音楽を予想してたから。
そしたら全然ポップだし、音も分厚くてハードロックっぽいなって思いました。
 
でも曲はどれも短くて、コーラス・ワークもありで構えなくても聴きやすい。
そこにディストーションの効いた、攻撃的なギター・サウンドのコントラスト。
ただのチンピラの寄せ集めじゃなくて、むしろ大真面目に音楽のことを考えた結果ってのが可愛くて面白いよね
チンピラ4人で、しっかり曲を作って。
初心者4人がしっかり、練習したんだなって。

ロックやパンクの魅力ってさ、レコードを聴いてガツンと衝撃を受けた時に。
あ、自分でも出来そうだなって思えること。
スーパー・テクニックなんて必要なくて、誰でも直ぐにプレイ出来そうなところが良いんだよね。
親切なところも、重要ポイント。
ブルーハーツやグリーン・デイは、いつだってストリート・キッズの味方。

※ブルーハーツについては、こちらもどうぞ

 
ここでは、「パンク=反体制」っていうイメージを決定付けた、代名詞である④⑦を紹介します。

「英国女王陛下、おまえに未来なんかないぜ」と、王室批判をアイロニックに繰り返す④。
全世界に存在する組織的宗教集団を糾弾する、「俺は反キリスト」⑦。
続けて、「俺は無政府主義者」。
当然、ラジオで放送禁止になりました。

ピストルズなんてどうせ中身のない頭の悪いチンピラ達が、スキャンダルを売りに騒いでるだけのイロモノだろ。
ってな世間的なイメージを覆すには、十分過ぎた。
あっ!と言わせるには鋭利過ぎた、ウィットと知性。
現代にも通じる、ストリート・キッズからの反撃の狼煙。
それだけじゃなくユーモアもあって、歯に衣を着せない芯を喰ってる感じも面白い。

シンプルなロックンロール+反社会的なメッセージ+粗暴なボーカルとギター・サウンド=パンク。
その雛型を、世界に生み落とした偉大すぎる功績。
緊迫感と斜に構えた小馬鹿感が矛盾なく同居しつつも、溢れんばかりのエネルギー迸ってるのも、かっこいいよね。

シド・ヴィシャスという、パンク・アイコン

あれ?ここまででシド・ヴィシャス(以下、シド)の名前、出てきてなくない?
ピストルズのベーシストって言ったら、若くしてドラッグで死んだシドじゃないの?
って思った方も、いると思います。

ピストルズが活動を開始して間もなく、バンド内のパワーバランスが分裂。
マブダチ同士のスティーヴとポール・クック、ソングライターのグレン・マトロック、そしてロットンという、三つ巴に。
まさに、三国志です。
そこでソングライターとしては優秀だったけどピストルズのカラーに合わないという理由で、まずはグレンがクビに。
そして2対2のバランスを作る為、今度はロットンがマブダチを連れて来た。
これが、シドだったわけで。

ロットン(腐敗)と、ヴィシャス(乱暴者)。
どっちも、芸名。
がなる様に歌う、カリスマ性を放つロットンと。
上半身裸で流血しながら客を煽りまくる、破滅の象徴、シド。

こうして誰もがイメージする、ピストルズは再出発します。
けれどマルコムによって作られたピストルズの虚像と、良く先々でのトラブルに疲弊し切ったロットンは、アメリカ・ツアー中に突如脱退。
そしてピストルズは、たった2年で解散へと向かいます。

ちなみに今作のレコーディングで、シドはベース弾いてないって知ってた笑?
初めて知った時、そこまで詐欺なんかい!ってますます好きになった笑。
話題性重視で加入したから、録音時に知識も技術もなく弾けなかったっていう。

そんな音楽的ド素人が、どうしてパンク・アイコンなのか?
ドラッグのオーバードーズで、若くして死んだから?

それもあるだろうけど、シドが他のメンバーとも他のパンクス達とも違ったのは。
全てに、「No」を叩きつけたこと。
刹那に、生きたこと。

ロットンでさえ、ピストルズ脱退後は新しい可能性を探ってPILを結成。
クラッシュやジャムといった他のロンドン・パンク勢も、新しい表現を模索しながら成熟期へと突入してました。

ピストルズは、ロックの発展や進化を否定、音楽的決まり事を否定、女王陛下を否定、そしてバンドの未来すらも否定した。
ただその後もシドだけが、自分の人生すらをも否定したんだよね。
大馬鹿っていえば大馬鹿なんだろうけど、「No Future」に殉教したのはシドだけだった。

刹那に生きたから、永遠のパンク・アイコンになった男。
きっと今も地獄で、あらゆるものに「No」を叩きつけてる筈だよね。

余談

使用楽器

ギブソン・レスポール・カスタム(1974年製)
ピストルズでのスティーヴのギターといえば、白色のこちら。
白って言うよりはクリーム色に近いのは、煙草のヤニで炙ったから。
文字通り、日焼けボディです。
こういう発想やオリジナリティを求める姿勢もDIY、パンク・スピリットを感じます。
 
上記の通り、じゃあ元々の所有者はボウイか?
それともキースか?ってな疑問も浮かぶけど。
スティーヴ曰く、ニューヨーク・ドールズ経由でマルコムから貰ったとのこと。
シルヴェイン・シルヴェインのかな?
どっちにしろ、ロック・スターの所有物だったんかい!ってな、いかにもピストルズらしいエピソードです。

「グレート・ロックンロール・スウィンドル」と「ノー・フューチャー」

どちらもジュリアン・テンプルが監督した、ピストルズのヒストリー映画。
 
前者は生みの親であるマルコムが語り手となって、歴史を紐解いていく。
ただね、自分の手腕と哲学がいかに優秀だったかを、嬉々として自慢する映画なんで笑。
勿論貴重なライヴ映像は迫力満点だし、見応えは十分だけど。
個人的には、後者の方が好み。
これは、「グレート~」で描かれたもんは嘘っぱちと怒り心頭のメンバーが、真実はこうだ!と鼻息荒く語る映画。
今回のブログでのいろんなエピソードも、こちらを参照してます。
要はどっちの映画も、「ピストルズの功績は俺のおかげだ!」って言いたいだけなんだけど笑。
 
この2作に関しての功労者は、間違いなく監督のジュリアン・テンプル。
別視点からさ、しかも対立する主張者同士から、やいやい言われてよく撮ったよね笑。
しかもどちらも結成から解散までの流れに沿って、丁寧に肉付けされてるし。
レコードを聴くだけではその細部まではどうしても伝わらない部分が、しっかりと立体的に浮かび上がってきます。
 
ちなみに、ドクター・フィールグッドの映画「オイル・シティ・コンフィデンシャル」もこの監督なので、是非。
 
※ドクター・フィールグッドに関しては、こちらもどうぞ

最後に

以上。
全世界を震撼させた、ロンドン・パンクの衝撃波の第一人者と発信源にして。
現在もパンクのアイコンとして不動のポジションに君臨する、ピストルズの実態は。
即席、茶番、ヤラセの詐欺バンド。
 
だってまずさ、バンド名からしてコントだもん。
絶妙なこのトーン、ワイセツだぜ。
ジャケも、黄色にピンクって。
絶妙なこのトーン、ワイセツだぜ!
 
マルコムが話題先行で一儲けを企んだのが、きっかけとかさ。
メンバーは、チンピラ・音楽素人の寄せ集めとか。
ボーカルがオーディションで選ばれたとか、ベースは口パク(弾けないって意味で)とか。
 
とにかく、パンクとは程遠いエピソードばかり。
ザ・芸能界の匂いがプンプン、ハッタリと勢いだけの販売戦略、傍迷惑な話題作り。
「No」を叫ぶ為に結成されたんじゃなくて、「No」を言わされる為に集められた烏合の衆。
何から何まで、人工的で虚像のピエロ。
ロットンが解散後、芸名を本名の「ジョン・ライドン」に戻したのも、嫌気が差したからだよね。
 
ただ、ピストルズが「生まれるべくして生まれた」ことは間違いないわけで。
ロック史に刻まれた、大騒動だったことは。
デンジャラスで卑猥で、でも稲妻の如く駆け抜けた怒涛の2年間だったことは。
混沌とした時代が生み落とした必然性もそうだし、結果的にロックンロールがパンクって名前を変えてダイナミズムを取り戻したことも。
 
嘘も吐き続ければ、それは真実になる。
まさに、瓢箪から駒。
冗談からピストルズ。
 

騙されたって、良いじゃない。
ロックンロールやパンクは、詐欺で良いじゃない。
シンプルでエネルギッシュ、どこまでもストレートでパワフルな快心の出来であることすらも。
うでもいいじゃない。

大事なのは、今作が投げかける問題と衝撃が、今も世界中のキッズをパンクスに目覚めさせていること。
これは、マルコムでさえ予測できなかっただろうなぁ。
 
過激な言動で、こんなにも世間を嫌悪感と衝撃の渦に巻き込んだロック・バンドは居なかった。
ロックンロールを通して、怒りと退屈に満ちたキッズ達に、パンクという贈り物をくれた詐欺バンドのお話でした。

今回も最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
それではまた、次の名盤・名曲で。

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この記事を書いた人
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