僕は、彼女がそこに立ってるのを見た。あの時から、音楽シーンの全ては塗り替えられてしまった。
目次
The Beatles/Please Please Me
1963年作品
収録曲:A面
①I Saw Her Standing There
②Misery
③Anna(Go To Him)
④Chains
⑤Boys
⑥Ask Me Why
⑦Please Please Me
収録曲:B面
⑧Love Me Do
⑨P.S. I Love You
⑩Baby It’s You
⑪Do You Want To Know A Secret
⑫A Taste Of Honey(蜜の味)
⑬There’s A Place
⑭Twist And Shout
※後期の大名盤「アビー・ロード」については、こちらもどうぞ
現在も続くポピュラー音楽界において、 与えた影響と達成した偉業は星の数。
そんな文字通り「ワン・アンド・オンリー」な存在は、 やっぱりこの4人。
港町、リバプール生まれ。
今日(こんにち)当たり前みたいに思われてる全てのことは、 元を辿ればビートルズ。
なんか、こうやって書いてることすらも野暮みたいだけど。
ロックに興味ないというか、縁のない人。
そんな人がふと軽い気持ちで、何か聴いてみたいなぁ、とか。
初心者用の入門盤みたいなの、あるかな?って訊かれた時。
ビートルズのデビュー盤、 今作をオススメするのが一番良いんじゃないかと。
あれもこれもじゃ、飽きちゃうかもしれないし。
なんかいきなり、 ハードルが高そうって躊躇しちゃうかもしれないし。
月に1枚くらいなら、そんなこともなく楽しめる。
しかも、全14曲通してトータル約30分。
こんな最適盤、他にはないよね。
これからビートルズと出会う人生、ビートルズを知っていく人生。
素直に、心から。
羨ましいと思います。
ちなみに、「ザ・ビートルズ1」っていうベスト盤があるんだけどさ。
その名の通り、イギリスとアメリカのチャートで1位を獲った楽曲だけで構成されたアルバムなわけで。
その数、27曲(呆)。
とんでもないっしょ、この数字。
そして当然の如く、このベスト盤も日本を含めて世界34か国で1位を獲っちゃうっていう。
もうスケールや動いてる数値が大きすぎて、クラクラしてきちゃうよなぁ。
入門盤としては最適ではあるけれど、やっぱりこれで分かったつもりになっちゃ困るわけで。
だからこそ、今作「プリーズ・プリーズ・ミー」から発売順に聴いていくとしようよ。
ゆっくり、じっくりとさ。
ビートルズという存在は、世界に何をもたらしたのか
自分で作った曲を、自分で演奏すること。
アルバムにテーマを持たせて、コンセプト・ アルバムとかトータル・アルバムの概念を作ったこと。
ストリングスやシンセサイザーを、 ポップスやロックに持ち込んだこと。
レコーディングにおける録音技術と、 技術革新の先陣を切ったこと。
新曲発売の際の宣伝広告、 プロモーションの為に映像作品を作っちゃうこと。
好きな髪形、着たい服を着て、 自由に振る舞っていいんだよと教えてくれたこと。
その全てが、世界中の人々の度肝を抜いた。
だって初期のヴィジュアルでお馴染みの、 あのマッシュルーム・カット。
あれ、どっちかっていったら可愛い髪形だよね。
それが「汚い」とか「不潔だ」って苦情が殺到したらしいよ、 今なら信じられないし考えられないけど。
髪形ひとつで革命だもん、長髪の男性諸君、感謝しなきゃね笑。
そして数ある革命の中でも、やっぱり凄かったのは。
常に前衛的であり続けたビートルズの、最大の一手は。
作詞作曲と、それを4人でプレイすることだったんじゃないかな。
前述したコンセプト・ アルバムの概念を作って世界を驚かせたのは、 1960年代中盤以降。
デビュー前もした後も、 ビートルズも他のアーティストと同じように、ブルースやR& Bのカバー曲をプレイしてたわけで。
当時は、ポップ・ミュージックはプロの職人が作るのが常識。
プロの作曲家が作って、プロのアレンジャーが編曲して、 プロのミュージシャンがバックで演奏して、 そのセンターでプロの歌手が歌う。
ポップ・ミュージックは、そうした工程で作り込まれたもの。
いっちゃえば、ある種の工芸品で製品だったんだよね。
そんな常識を破って、 自分達のオリジナルをプレイして勝負に出た。
しかも、しっかりとした音楽教育を受けたわけでもなければ、 他より秀でた演奏テクニックがあったわけでもなかった。
エルヴィス・プレスリーやリトル・リチャード、チャック・ ベリーが大好きな、ただの田舎町の悪ガキ達だった。
よくさ、ビートルズとストーンズの比較論でさ、「 ビートルズはお利口さんでストーンズは不良」みたいのあるけど。
あんなの嘘だよ、ビートルズは超不良笑。
そんなロック/ポップ史に最初の革命をもたらした、デビュー・ アルバムが今作です。
楽曲解説
今回は、「自分達で書いたオリジナル曲を自分達でプレイした」 という革命的アプローチの観点から、シングル曲①⑦⑧に重点を置きます(他のオリジナル曲は②⑥⑨⑪⑬) 。
まずは、⑦。
誰もが1度は聴いたことのある( ビートルズはそんな曲ばっかりだけど)、ポップ/ ロックのお手本ナンバー。
なんだけど、 それよりも音楽史的意義の方が重要な代表曲だと思ってます。
2ndシングルにして、初の全英チャート1位。
新人バンドが、デビュー・シングル⑧からわずか3ヵ月後に、 1位ですよ。
もうね、破格の成り上がり。
後にアメリカに上陸した時は出演したテレビ番組を7300万人が 視聴したとか、 数々の記録を打ち立てていくことになる伝説の始まりが、 まさにこの曲。
イントロのハーモニカ、サビの「カモン、(カモーン)」 の追っかけコーラス、何より馬鹿でも分かるメロディ・ライン。
ビートルズの原型といっていい、アイディアがてんこ盛り。
しかもそれが僅か2分間に凝縮、 如何に革新的だったかだよね。
この、起承転結の明確さですよ。
それもその筈、 作家が書いた曲をシングルにするという慣例を拒否し てまで書いたものだから。
自作曲に固執する意地とプライド、そして自信。
元々バラードだったのをテンポ・ アップしてアレンジし直すという、プロデューサーのジョージ・ マーティンからの指示にも素直に従う柔軟性まで見せちゃう。
この曲がイギリスのパブで、ラジオで流れた瞬間から、 現在に至るロックの歴史が始まったっていっても大袈裟でも何でも ないと思ってます。
とにかくね、インパクトが凄まじいまさに大ヒット・シングル。
続いて⑧、前述したデビュー・シングルです。
実は今作に収録されたヴァージョンは、 リンゴがドラムを叩いてない。
ジョージ・マーティンが出来に満足しなかったらしく、 代わりに叩いたのはスタジオ・ミュージシャン。
でもやっぱりね、リンゴのテイクの方が好きだな。
ビートルズの4人が、好きだからかもしれないけど笑。
リンゴのテイクの方が、 ゆらゆらしたちょっとサイケな味が出てるんだよね。
ジリジリした蜃気楼みたいな、妙なトリップ感がある。
それが、シングルにしては地味で暗めのリズムとメロディーに。
トプントプンって揺れる、それこそ港町のビートに合うんだよね。
雲がかったようなジョンのハーモニカも、じわじわくる。
曲のキーはGだけど、 Cのハーモニカを使用することでブルース度が増す、 というテクニックも必聴です。
ちなみにリンゴが叩いたテイクは、「パスト・マスターズ Vol.1」で聴けるので、是非。
そして個人的に今作のハイライトは、オープニング・ナンバーでいきなり炸裂①。
なんたってね、「1、2、3、ファーッ!」だからね。
「4」じゃなくて、「ファーッ!」。
誰もが知ってる&聴いたことある、「イエスタディ」「 ヘイ・ジュード」「レット・イット・ビー」の作者は、ポール。
世界一のメロディ・メーカーに、 ポップ史上最高のシンガーソングライターに、後になるわけだけど。
原点は、やんちゃなロックンローラー。
大先輩リトル・ リチャードへの憧憬丸出しのシャウトをかましまくる、 更にはドライヴもかましまくるぜ。
ロックンロールって、こういうこと。
初期ビートルズならではの、青き代表曲のひとつです。
デビュー前のパブやライヴハウスのドサ回り期からプレイしてたら しく、 ハードスケジュールの中で叩き上げたビートルズの実力を、き っぱりと証明する。
ビートルズは演奏が下手だとかテクニックがないとか言う人いるけ どさ、それマジで言ってる?
ポールのベース、ブイブイじゃん。
ブイブイ言わせてんじゃん、もはやジゴロですよ(死語)。
ライヴ感が迸るワイルドな熱気がムンムン、 これ聴いて血が沸き立たない人なんていないっしょ。
2015年の東京ドームでも、演ってくれました。
ぜーんぜん、衰えてなんてなかった。
ただただ、最高だったなぁ。
最後は、オリジナルじゃないけどやっぱり外せない⑭。
今作はたったの1日(!)でレコーディングが完了したんだけど、 実はジョンは風邪をひいてた。
そこで咳止めシロップで強行突破したジョンを心配したジョージ・ マーティンは、この曲をレコーディングの最後に回す。
ガラッガラの喉で文字通りツイスト& シャウトしたジョンのボーカル、これぞロックンロールでしょ。
体調が万全じゃなくてもさ、 歴史的なロックンロールは生まれるってこと。
時に、根性論はロックにも有効ってこと。
万全じゃなかったから、 アドレナリンが出まくったのかもしれないけど。
あとは、曲順。
①でポール、②でジョンとポールのハーモニー、③ でジョン、④でジョージ、⑤ でリンゴのリード・ボーカルが聴けるってのも粋すぎる。
「全員歌えるんだぜ、これが俺達ビートルズ」っていう、自己紹介のような編成。
そしてあっという間の全14曲、32分31秒。
「アルバムは30分、映画は90分がベスト。まずはそれが条件」 って言い張るオヤジ、昔居たな笑。
うん分かる、あわよくばそれもまた理想。
影響と、その後のビートルズ
限られた予算と時間で制作された今作は、ほぼ1発録り。
だからこそ、「ビートルズのライヴ感が最も刻まれたアルバム」 とジョンが後に認めた仕上がりになった。
これぞ、ロックンロール。
ビートルズはよく、 中期以降の作品が名盤に挙げられることの方が多いし、 それは確かにそう。
より複雑に、ロックにアートを持ち込んだし。
でも周りのビートルズ好きの人達の中にも、 やっぱり今作が一番聴きやすくてシンプルでかっこいいって言う人 、かなり居ます。
30週連続で1位(!)、 そしてその1位を蹴落としたのが2ndアルバム「ウィズ・ザ・ ビートルズ」っていう(!!)快挙も、信じられないよね笑。
時間にして、8ヵ月。
8ヵ月も1位をディフェンディングしたこと、 8ヵ月で2ndを制作したこと。
飛ぶ鳥を落とす勢いとはまさにこのことで、 ビートルズは解散するまでトップを維持し続けていく。
この時、ジョンとリンゴが22歳、ポールとジョージが20歳。
つくづく、信じられない。
ほぼ同時期にデビューしたストーンズは、当時腐りまくってたらしい(特にキース、やっぱりかよ笑)。
「なんであいつらばっかり売れるんだ」って笑。
そんな時にビートルズがストーンズのライヴを見に来てくれたそうで、それだけで「良い奴」に早変わり笑(おいっ)。
それまでは作詞作曲をするなんて考えたこともなかったミックとキースが、アドバイスを受けて自分達で楽曲制作を始めたのも、有名なエピソードです。
※ストーンズの名盤「ベガーズ・バンケット」については、こちらもどうぞ
あと、ジャケね。
吹き抜けのビルから、爽やかな笑顔を覗かせる4人。
当時のビートルズはアイドル的扱いもあったわけで、その意味でも無難なアートワークだけど。
後の解散間際に、同じ構図でまた撮るんだよね。
そしてそれが、有名な「赤盤」「青盤」のジャケに使われる。
今でこそよくある手法ではあるけど、こういうとこでもセンスが光ってます。
つーかジョン、風貌が変わりすぎでしょ。
余談
使用楽器
・リッケンバッカー325V59(1958年製)
世界で最初に、エレクトリック・ ギターを商品化した会社って知ってる?
意外にもギブソン社、フェンダー社じゃないんです。
正解は、リッケンバッカー。
今でこそリッケンのエレキって有名だけど、 当時はそうじゃなかった。
あの男がメインで使ったから、一気に名器の仲間入り。
それは勿論、ジョン・レノン。
凄いよね。
楽器に至るまで、この影響力。
今作でも聴ける歯切れの良いカッティングは、 このギターによるもの。
1964年まで使用、2代目リッケンをその後も使用しました。
元々は写真のようにメイプル色のボディだったんだけど、ジョンが黒に塗装。
2代目の時も黒を希望したから、メーカーが慌てて塗り直してくれたんだって。
さすがスーパースター、メーカーからしたら宣伝効果抜群だもんなぁ。
最後に
ビートルズがデビューして、解散するまで。
その間、僅か8年。
たったの8年で、発表したオリジナル・アルバムは12作品(「 マジカル・ミステリー・ツアー」「パスト・マスターズ Vol.1」「Vol.2」も入れれば15作品)。
この創作意欲のペースと、 どのアルバムも完成度がとんでもないってだけで、 如何に奇跡だったかが分かります。
更には、天才がバンド内に1人存在するだけでも凄いことなんだけど、 ビートルズは2人。
しかもその2人は、ジョン・レノンとポール・ マッカートニーだからね。
天才中の天才が、同時にひとつのバンド内に居るってことが、 天文学的確率なわけよ。
デビュー・シングル⑧を聴いてから、例えば「アビー・ロード」 を聴くと、これ本当に同じバンド?ってなるもん。
それくらい、進化と変化を極めたロックンロール・バンドだったんだな。
ビートルズの登場が、全てを変えた。
ストーンズを始めとして、ザ・フー、キンクス、ヤードバーズ…。
数々のイギリスのロック・バンドが、ビートルズの登場をきっかけに世界に発見されて、日の目を見て、 アメリカに渡っていく。
それがイギリス音楽界が初めて獲得した、 誇るべきアイデンティティになっていく。
面白いのは、どのバンドもアメリカのロックンロールやR&B、 ブルースを基盤にしたんだけど、 表現の仕方や解釈が本家アメリカとは違ってたこと。
アメリカ産の音楽の核心だけを抽出しながら、 シンプルで華々しいギター・フォーマットに変換したこと。
このスタイルは、ビートルズが1964年に3rdアルバム「 ハード・デイズ・ナイト」 を引っ提げてアメリカに上陸した瞬間に、一気に メインストリームへと拡大します。
ポールが「彼女がそこに立っているのを見た時」から、 今作が発表された瞬間から。
ロックの歴史が、始まったんだよね。
今回も最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
それではまた、次の名盤・名曲で。
\\ 良かったらシェアしてください! //
\\良かったらシェアしてください!//
Facebook
Twitter
LinkedIn
Email
この記事を書いた人
Kazuki
合同会社Gencone GANNON運営代表
関連記事
この男を神様と慕うロックンローラーは、星の数。あなたにも、神様入門の最適盤を。
2024年9月7日
容赦なく歪んでいく白い光と熱は、愛と平和に牙を剝き、終わりの始まりを告げた。
2024年8月23日
ならず者達の泉は、 何度汲んでも。枯れることも、尽きることもないんだ。
2024年8月14日
世界一有名なバナナは、夢見るメロディーで始まり全てを破壊するノイズで終わる。
2024年8月2日
必殺技を手にしたバンドは、べっちょりとした指で世界中を踊り狂わしたのさ。
2024年7月26日
乞食の宴は、黄金期の幕開け。傍らには、置き土産のスライド・ギター。
2024年7月19日
台無しになった誕生日ケーキ。欲しいものが、いつでも手に入るわけじゃないんだよ。
2024年7月12日