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乞食の宴は、黄金期の幕開け。傍らには、置き土産のスライド・ギター。

目次

The Rolling Stones/Beggars Banquet

1968年作品

収録曲:A面

①Sympathy For The Devil(悪魔を憐れむ歌)
②No Expectations
③Dear Doctor
④Parachute Woman
⑤Jigsaw Puzzle

収録曲:B面

⑥Strret Fighting Man
⑦Prodigal Son(放蕩むすこ)
⑧Stray Cat Blues
⑨Factory Girl
⑩Salt Of Earth(地の塩)

前回の記事で、数あるストーンズ名盤の中でも名刺代わりに相応しい、「レット・イット・ブリード」について書いたわけなんですけども。
そこでも少し触れたけど、やっぱりその導火線にもなった今作についても書きたいなと思いまして。
いつか書きます、って言っちゃったけど。
もう、やっちゃいます。
どの作品についても、その素晴らしさを語りたい。
それくらい、ストーンズってバンドはやっぱり最強なんだもの。

※前回記事については、こちらをどうぞ

「乞食の宴」という人を喰ったようなアルバム・タイトルに、猥雑なトイレの落書きジャケット。
それまでの少年期、まだまだ青く若かった時代と大人の端境期に在る風情と、佇まい。
次作の「レット・イット・ブリード」以降で完成されるストーンズにはない”不安定さ”が、逆に得難い魅力になっている名盤。
ここでしか、この時期でしか鳴らせなかった音が、しっかりと刻まれている1枚です。

前作の低評価、そして今作誕生まで

要はね、60年代後半の時勢ってやつですよ。
1967年に発表したアルバム「サタニック・マジェスティーズ」は、それまでのストーンズ・クリエイトからは想像もつかない、サイケデリックぶり。
R&Bを基盤にしながら、ロックンロールのメインストリームをオラオラと闊歩してた姿はどこ行った?とみんな不安の真っただ中。
当時はストーンズの将来性について、ファンクラブ会員の間で大きな議論にまでなったらしいよ。
インターネットも、SNSもない時代に。
ま、時代は変わっても人は変わらんってことね。

一部のリスナーは、時勢に乗っかった実験的なサウンドとスタイルの変化を歓迎したけど、多くの批評家はアルバムを酷評。
ただの、ビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」のパクリじゃねえかと。
メンバーが仮装して横並びのジャケとか、モロだし笑。
完成度においても、比べ物にならない、とかね。
今でこそ、そのカラフルな音像美は再評価されてるけど。
ちょっと話は逸れるけど、何なんだろうね。
この、大分時が経ってから評価されるってやつ。
死んだ後、とかさ。
褒めるなら、褒められるなら。
生きてるうちにさ、思う存分にやっておこうよ。

そこで1968年に入り、ストーンズは原点回帰を決意。
敏腕プロデューサーとして知られたジミー・ミラーを迎えて、より直感的で生々しいレコーディングを目指していきます。
この関係は1972年発表の「メイン・ストリートのならず者」まで続くから、さすがはミックだね。
だって、ここからは名盤以外の何物でもない作品を、連発しまくるってことだから。
こうして制作されたのが、ファンによっては最高傑作に挙げる人も多い今作。
ただ、新たな問題が。
それは、またしてもジャケ笑。

「ボブ・ディランの夢」「ジョンはヨーコを愛してる」「リンドンは毛沢東を愛してる」といったトイレの壁の落書きのアートワークを、レコード会社がいかがわしいという理由で拒否。
結果、シンプルな白いデザインに変更されて発売することに。
ところでさ、ジョンとか毛沢東とか、何処に書いてあるか分かる?
筆者は不勉強が過ぎて、いまだに分かりません笑。

通称、ホワイト・ジャケット。
ここでもまた、同時期に発売されたビートルズの「ホワイト・アルバム」のパクリじゃねえかって散々叩かれます。
大変だねえ、スターってのも。
いちいち、誰かと比べられてさ。
それがビートルズだってんだからさ(でも当時は何でもビートルズと比べられた。それくらい圧倒的な存在だった)。
お疲れ様です、ストーンズ。

ただ、内容は最高。
聴けばすぐ分かる、なんたって音が尖ってるもん。
ギターなんて、耳に痛いもんね。

全体に張り詰めた空気感は、ここがターニング・ポイントになることが自分たちで一番分かっていることの表れ。
ジミー・ミラーが言ってたけど、今作に賭けるストーンズの意気込みは相当だったみたいで。
集合時間のかなり前にスタジオに行ったら、もう全員でのリハーサルを始めてたんだって。
時間やルールにルーズそうなイメージの(失礼!)、ストーンズらしくないエピソード。
燃えてたんだよ、やってやるぜって。
今一度ロックンロールの輝きを取り戻して、世界を見返してやるってさ。

ちなみに有名なこのトイレの落書きジャケは、1983年に遂に解禁、無事に発売に至りました。
断然、こっちの方が良いよなー。

楽曲解説

オープニング・トラック①。
悪魔の視点から歴史を語るという斬新なコンセプト、そのリズミカルなコンガを筆頭にアフリカ系のパーカッションを大胆に用いた代表曲。
間違いなく、このリズム・アレンジはロックとストーンズの新しい可能性を切り開いたよね。
チャーリー・ワッツ(以下、チャーリー)の繊細なスネア・ワークで始まって、コンガ、マラカス、シュケレと次々に加わっていくリズムとスリリングな展開に興奮必至。
ロシア革命、ケネディ大統領暗殺など歌詞は歴史的な事件を取り上げつつ、人間の悪の本質にメスが入っていく。

ジャン・リュック・ゴダール監督の映画「ワン・プラス・ワン」は、この曲のレコーディング・セッションを中心としたドキュメンタリーで、一見の価値ありまくり。
原曲とは少し違ってフォーク風のアレンジで始まって、次第に煮詰まっていく緊張感がビシビシ伝わってきます
ドラッグでボロボロでただのお荷物と化したブライアンが、バンドの音もそっちのけで録音されてないギターをだらだら弾く姿が、ただただ悲しいけど。

悪魔が降ってきたような不敵なミックがかっこよすぎる、「ロックンロール・サーカス」でのこちらの映像もスーパークール。

続く②は、「俺を駅に連れて行ってくれ、汽車に乗せておくれ」と歌われるブルージーなバラード。
個人的には、これが今作のハイライトです。
勿論、主観が入り過ぎてることは分かってますともさ。
①⑥っていう、代表曲を差し置いてね。
「出会って初めて奴のスライド・ギターを聴いた時は、腰を抜かした」とキースが語る、ブライアンの十八番が存分に聴けます。
ミックのボーカルも、徐々にエモさを増していく。
なんだろうね、ブライアンも分かってたのかな。
これが、最期の仕事になることが(次作「レット・イット・ブリード」では2曲にクレジットされてるけど、名ばかり参加)。
ベスト盤にはあまり収録されないんだけど(何故なんだ!)、美しさしかない大人気曲です。

チャーリーのタンバリンが軽快なこのプリミティヴな味わいのカントリー③、ダイレクトでセクシャルなヘヴィー・ブルース④、ブライアンとはまた違う味を醸すキースによるスライド・ギターが炸裂する⑤を経て、A面が終了。

そしてB面幕開けの⑥は、イリノイ州シカゴでの民主党大会及び、パリの学生暴動にインスピレーションを受けた代表曲。
キースのエネルギッシュなアコギのリフに、オフ・ビートを多用した変形8ビートを叩き出す、チャーリーのドラミングがたまらないぜ。
「貧しい少年達には、ロックンロール・バンドで歌うこと以外には何も出来ない」の歌詞も素晴らしい。
オアシスのノエルや、レイジのザックが好きそうな歌詞だなぁって思ったあなた、勿論どっちもカヴァーしてます!

※オアシスに関しては、こちらもどうぞ

※レイジに関しては、こちらもどうぞ

毎回必ず採り上げるブルースのカヴァーは、牧師としても活動した伝統的なブルースマン、ロバート・ウィルキンスの⑦。

そして、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの代表曲、「ヘロイン」にインスパイアして書かれた⑧。
ちなみに「ヘロイン」が収録されたアルバムは、あの有名な「バナナ・ジャケ」。
こちらも、いつか必ず書きます。

フィドルとマンドリンが印象的なアイリッシュな雰囲気が癖になる⑨では、チャーリーのこだわりが聴きどころ。
タブラーを手ではなくドラム・スティックを使って繊細にサウンドを作ったというエピソードは、ジャズをルーツに持つチャーリーらしいね。

ラストは、キースのファースト・ヴァースから入りミックが続く、労働者階級に捧ぐ賛歌⑩。
アルバムのクロージング・トラックに相応しい、ダイナミックでドラマティックなナンバーです。
9.11の同時多発テロで犠牲となった、消防士や警察官とその家族を救済する為のベネフィット・ライヴでも歌われました。

影響と、その後のストーンズ

前作から一転、今作は世界中で好意的に評価されて、古参も新規もファンは再び熱狂へ。
そして、大名盤「レット・イット・ブリード」(1969年)を発表します。

更には1970年に、ニューヨークはマジソン・スクエア・ガーデンでのライヴを収めたアルバムまでリリース。
2つのギターとタイトなリズム隊で構成されるストーンズ・サウンドが、ここに爆誕。
70年代ストーンズの天下無敵の躍進が、始まっていくのさ。
そもそもこの時代、マジソンでライヴを演るなんてことは、全然一般的じゃなかったんだよね。
ビートルズの、来日武道館公演みたいなさ。
ここでストーンズが演ったことは正にパイオニアだし、現在では当たり前のスタジアム・ロック時代の幕開けもまた、高らかに宣言するものだった。

さぁ一緒に叫ぼうぜ、ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト!
チャーリー、可愛い笑。

余談

使用楽器

・ギブソン・レスポール・カスタム(1957年製)

キースのギターの中でも有名な1本で、通称「Black Beauty」。
アメリカの有名なTV番組「エド・サリヴァン・ショー」や、「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」のMV、映画「ワン・プラス・ワン」等で確認できます。
ボディー・トップのサイケデリックな月は、キースの手描きらしい。
今作でのレコーディングでは、エレクトリックではこのレスポール、アコースティックではギブソン・ハミングバードをメインで使用して重ね録りを繰り返し、ギター・パートはほぼキースが担当。

あとは、1966年製のフェンダー・プレシジョン・ベース。

ベースってビル・ワイマン(以下、ビル)じゃないの?って素朴な疑問もあるけれど、今作はアフリカ系民族楽器をはじめとした様々なサウンド・アプローチが特徴的。
あとはギター担当のブライアンが使い物にならなくなってたのもあって、レコーディングにおいて楽器担当がイレギュラーに。
①でビルがマラカスをプレイしたりで、キースがベースを担当することが増えたわけ。
ギター・パートも、事実上分担が出来なくなったりで。

「ロックンロール・サーカス」でも、ジョン・レノン(中央)の右隣でこのベース弾いてます。

最後に

実は今作制作当時、ストーンズはかなり厳しい状況にあった。
中心メンバーであるミックとキースに続いて、ブライアンもドラッグで逮捕。
裁判もまだ、係争中。
仕事以外のさ、例えば金、家族、恋愛でも何でも。
外的要因で、仕事に支障が出るのはよくある話。
それもまた、人生だしね。
一般人でも、ロックスターでも。
大差なんてない。

それに前述したように「サタニック・マジェスティーズ」はぼろくそに貶されて、踏んだり蹴ったり。
ストーンズが凡百のバンドだったら、ここでダメになっていたよ。
そうなったって仕方がないし、全く不思議じゃないもん。

だけど、そうはならなかった。

逆境を跳ね返して、現在に至る長いキャリアの中でも、前人未到の黄金期へと突入していく。
だってさ、1963年にデビューして比較的に早くスターにはなったけれど、そこから批判と酷評に晒されて。
音楽以外のことでもね。
それを乗り越えて、バンド史上最高傑作を生み出しちゃう。
しかも、1枚でなんか終わらない。
ファンの間で、これが最高、いや、こっちが最高でしょってな議論が今夜も世界中の至る所で交わされてる名盤の数々を、1978年まで連続で作っちゃう。
今作から「女たち」までだから、8作品か。
いや待て、8作品も!?ってなるよね。
キャリアの中で甲乙付け難いアルバムなんて、1枚作るだけでも凄すぎるのに。
3枚なんていったら、世界中のロック・バンドを見てみても、数える程しかいない。
それが、8枚。
長いキャリアのバンドって、ただチンタラやってる時間が長かったりするだけ、がほとんどだしさ。

今作は、ストーンズが自らのルーツに立ち返ったアルバムだ、って良く言われるけど。
それだけじゃなくて。
とにかく驚かされるのは、デビューからたった5年で怖ろしいまでに表現力を高めていること。
人類が誕生して以来、その歴史をつぶさに観察と傍観をしてきた存在=悪魔。
それに扮したミックがサンバの強烈なリズムを纏って、人類の欺瞞と殺戮の歴史を、語り始める。
まるで、映画のイントロダクションみたいに。
それは同時に、ストーンズの黄金期の到来を告げた。
そして続くのは、その到来にも、世界の全てにも興味を失くしてしまった男のスライド・ギター。
ミックの記憶の中で、思い出せる中で最期の姿となった音色が、切なく鳴り響く。
それはかつてメンバーのリーダーで兄貴分だったブライアンの、せめてもの置き土産。

「俺を空港に連れて行ってくれ、飛行機に乗せておくれ、もうここには戻らないから」

今回も最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
それではまた、次の名盤・名曲で。

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この記事を書いた人
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