合同会社Gencone

合同会社Gencone

ラップじゃなくちゃならなかった、メタル・ラップという究極のラヴソング。

目次

Rage Against The Machine/S.T.

1992年作品

収録曲:A面

①Bombtrack
②Killing In The Name
③Take The Power Back
④Settle For Nothing
⑤Bullet In The Head

収録曲:B面

⑥Know Your Enemy
⑦Wake Up
⑧Fistful Of Steel
⑨Township Rebellion
⑩Freedom

前回ね、ジャケットのインパクトえぐくないっすか?ってので、クリムゾンについて書いたわけなんだけど。
そのまま今回も、衝撃的で印象的なジャケの名盤ってことで。
えーとですね、初めて聴いたというか手に取った時、何が描かれてるのか分かんなかったんですよ。
単純に、何だろうこれ?って。
自分もそうだったっていう人、結構いるんじゃないかな。

ロールシャッハテスト、って知ってますか。
この名前は知らなくても、有名な「妻と義母」なら知ってる人も多いんじゃないでしょうか。
隠し絵、ってやつです。
筆者の時代は、国語の教科書に載ってたな。
奥を向いている若い女性と、鷲鼻で顎を引いている義母(お婆さん)が1枚の絵に描かれている。

ちょっと長くなってしまったけど、今作のジャケを初めてパッと見た時に、あの隠し絵なのかなって思ったわけ。
そしたらびっくり、良く見たらなんと人が燃えているではありませんか。
今にも人が、炎に吞み込まれようとしている。
更に、折り畳まれたレコードの背表紙を広げたら(CDの場合は裏ジャケ)、路上のど真ん中じゃありませんか。

ここで、この衝撃的なジャケを解説。
ベトナム戦争中の1963年、アメリカ政府の傀儡政権だった南ベトナムによる高圧的な仏教徒差別に反対する為に、焼身自殺をした僧侶ティック・クアン・ドックの写真です。
カンボジア大使館の前で自らガソリンを被り、絶命するまで蓮華座を崩さなかった姿をアメリカ人ジャーナリストのマルコム・ブラウンが撮影したこの報道写真は、世界報道写真大賞を受賞。

あーこれは絶対にやんべえアルバムだって、覚悟して針を落とした記憶が蘇るね。
そう、とんでもなくやんべえのよ。
やばいじゃなくて、やんべえ。
ジャケに込められた意味や歴史的背景を知って、ますますバンドの並々ならぬメッセージとアイデンティティを感じることになったのは自分だけじゃないはず。

アメリカのロサンゼルスで結成されたレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(以下、レイジ)の、世界がひっくり返った衝撃のデビュー・アルバム。

レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン結成と今作の制作まで

メンバーは、メキシカン・アメリカンとして政治的活動家の両親の元に生まれたザック・デ・ラ・ロッチャ(ヴォーカル)、政治学専攻でハーバード大学を卒業して議員秘書にまでなったインテリのトム・モレロ(ギター)を中心に、ティム・コマ―フォード(ベース)、ブラッド・ウィルク(ドラム)。

そもそも、バンド名ね。
訳すと、「機械に反抗する怒り」。
今作(のみならず全作品)を聴けば分かるけど、とにかく怒ってるわけですよ。
最初から最後まで、デビューから解散まで。
とにかく、怒ってるわけです。
じゃあバンド名然り、「怒り」は分かるけど、「機械」って何?
工場とか、ロボット?
それは、資本主義や科学技術の発展の象徴。
体制を意味します。
子供の頃から混血児として不当な差別を受けながら育ってきたザックが、ザ・クラッシュやMC5といったパンク・ロックと、パブリック・エネミーやビースティ・ボーイズ等のヒップホップに出会って見つけた、自分の居場所。
そこで慰められて夢中になって、生活そのものとして学んだ体制と権威に対する反発、怒りを表明する最も有効で地に足が着いたエンターテイメントと政治活動こそが、彼の書くリリックだったわけです。
そしてロックやパンク、ハードロックやヘヴィ・メタルが大好きなギター・キッズ、モレロと出会った瞬間にレイジは誕生したんだな。

社会の様々な現代病である、行き過ぎた資本主義がもたらした格差と荒廃、企業による搾取、人種や性による差別、メディアの情報操作、不当な拘束と逮捕、独裁政府同士の結託と金の流れ。
そんなアジテーションとパッションに満ちたハード・コア仕込みの糾弾の言葉が、どこを切ってもかっこよくてノイズすらも自在に操る一撃必殺のギター・リフと、硬質な重戦車のリズムに支えられて、狂気ともいえる圧倒的なテンションで解き放たれていく。

レイジ=レッド・ツェッペリン×パブリック・エネミー、の方程式は有名な例えだけど、今作はその全てをいきなりぶちかましてます。

レッド・ツェッペリン

パブリック・エネミー

楽曲解説

不穏なイントロからいきなりエンジン全開、つーか火だるまになって全速力で突っ込んでいく代表曲①で幕開け。

続くデビュー・シングル②。
ワーミーを使用したギター・ソロと、後半の、ひたすら呪文のように繰り返される怒りに満ちた「ファック・ユー、おまえの言いなりになんかならねえ」で叫んでしまうこと必至。
ライヴでは、逆さに吊るした星条旗に火を点けるなんて演出もあった。

荒れ狂う大海にボート一艘で漕ぎ出して行く様な、ファンキーなベースにぶん回される③。

そして個人的にハイライトな⑥「てめえの敵を知れ」。
もうこれね、ギター・リフが全編完璧。全身の血が沸き立ちやがるぜ。
初めて聴いた時、頭を振りすぎて首がもげるか思ったもん。
アウトロのザックが、脳裏から離れない。

レッド・ツェッペリンの「カシミール」を思わせる、映画「マトリックス」でも使用された⑦を挟み、アルバムのクロージングに相応しい⑩。
レイジのメッセージを象徴する力強いラップ、変調な展開が様々な感情を呼び覚まして、聴き終わると涙がこぼれちまうぜ。

「爆弾」で始まり、「自由」で終わる。
その核となる「怒り」を表現したサウンドは、この後大量発生することになる彼らのフォロワーの中で誰一人、絶対に出せなかったもんね(断言)。
モレロの画期的でトリッキーな変態奏法も、1990年代当時に停滞していたエレキ・ギターの技術とスタイルの新たな可能性を開いたし。
ジミヘン以来じゃないかな、ここまでの表現力は。

そもそも、ロックにラップを乗せるっていう試みは、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(以下、レッチリ)をはじめとして、1980年代後半から多くのバンドが取り組み続けた課題だったわけで。
それが「ミクスチャー・ロック」って呼ばれることになるんだけど、それはあくまで2つのジャンルの融合に過ぎなかったとも言えます
でもレイジはこの2つを完全に一体化させて、新しいハードロックを作り出した。
ザックは、所謂「歌」を歌わなかった。
ラップ一本勝負、それによって表現強度をそれまでのハードロックやヘヴィ・メタルよりもずっと高いものに昇華したんだな。
これが、その他のミクスチャー・バンドとの大きな相違点。
ラップに対する意識が、全然違ったんだよね。
レイジは、ラップをやってみよう、じゃなかった。
ラップじゃなきゃ、ダメだった。
怒りを明確に定義して方向性を持たせて、「おまえが悪いんだ」とターゲッティングしていくこと。
それが、異様なまでに表現の緊張感を倍増させていく。
リアリティを纏っていく。

「俺が書く歌は、全てラヴソング」とはザックの言葉だけど、それは歌詞に「Love」が出てくるような所謂ラヴソング、じゃない。
360度全方向、政治に向かうものだった。
徹頭徹尾、怒りと嘆きと憤り、そして憎悪。
確固たる主義主張は、情緒に訴えかけるものとは程遠いんだよね。
ラヴ、とは対極の言葉たちだから。
言葉もサウンドも過激で暴力的なんだけれど、決して辞書的な意味合いの暴力なんかじゃなくて。
ペンとマイクを片手に、ザック自身が愛する人々と、世界中で差別や搾取に苦しんでいる同胞たちへの想い。
自分の血筋に対するコンプレックスと誇り、国に託す希望。
そう広く捉えた時に、彼を突き動かしているものはやっぱり愛。
愛情表現。
愛によるヒューマニズムそのものだと思ってます。

なら、レイジの歌は全て究極ラヴソングと言っても過言でも例えでもないと思う。
だからこそ、悠長に音符に乗せて歌ってなんかいられなかった。
マシンガンのように吐き出すラップしか、ありえなかったんだよな。

影響と遺産

システム・オブ・ア・ダウン、リンプ・ビズキット、アット・ザ・ドライヴイン、はてはミューズまで。
日本でも、ドラゴン・アッシュ、マキシマム・ザ・ホルモン、ライズ等が影響を公言しています。
ヒップホップとロックの融合は、1990年代後半のオルタナティブ・ロックやラップ・メタルの台頭に影響はを与えたことは勿論だけれど。
内省的な色合いを深めつつあったロックの流れに、強靭な肉体感覚と闘争精神を注ぎ込んだ、武闘派のバンド・イメージの確立は大きかった。

当時のロック・シーンは、グランジのツートップであるニルヴァーナもパールジャムも売れすぎちゃって、本人達も「商業主義」って揶揄されることに繊細だったわけで。
レッチリさえも新しい方向性を模索中で、オルタナティヴと呼ばれていた地盤そのものが変化の真っ最中。
そこに聴き手を殴りつけるが如く、ロックの原点とは衝動そのもの、を体現する存在として登場したことは、世界中に衝撃を与えました。

勿論、レイジに熱狂したキッズ達に(筆者も含めて)、彼らの高度な政治的メッセージが、正しい形で、レイジが望んだ形で届いていたかは分からない。
いや寧ろ、完全には伝わっていなかったんじゃないかな。
表現って、どれもそうだし。
それにレイジの主張にも、偏りすぎなところもあったわけで。
それでもレイジから学んだことってさ、自分で考えて行動するってことなんだよね。
別に、何も政治的じゃなくても。
物事は全てが多面的で、それぞれに立場と主張があって、調べたり経験してみないと、知らない側面ばかりだってこと。
言い方が陳腐だけど、光あるところに必ず陰があるわけで。
正義の裏に、抑圧された弱者が居ること。
ニュースもメディアも学校の授業も、片面しか教えてくれないこと。
音楽云々ではなく、これは生きるうえでとても大切なことだと思います。

余談

使用楽器

・クレイマー社のストラト型に似たギター

「ARM THE HOMELESS(ホームレスを武装させろ)」とこれまた政治的なメッセージが書かれた、モレロの代名詞ともいえるギター。
4頭のカバが、可愛い。
そして、逆に怖い笑。
レイジ期のメイン機で、現在も愛用してます。

ネックは、ゴミ箱に捨てられていた(!)というグラファイト製。
フロント・ピックアップにはハムバッカー・サイズのシングルコイルで、「H」。
リア・ピックアップには「85」を搭載、共にEMG製。
トレモロ・ユニットはアイバニーズ製。

要は、DIY精神よろしくなオーダーメイド、カスタム・ギターです。
何度も何度も部品交換を繰り返して、漸く納得のいくギターに仕上がったとか。
秘書時代に購入し、手に入れた当初の原型はほぼないらしい笑。

・フェンダー製のテレキャス

1982年製の、アメリカン・スタンダード・テレキャスター。
ドロップDチューニング(6弦だけ1音下げること)に設定してプレイする時のメイン機。
今作では、②⑩等で聴けます。

最後に

とにかく本気で世の中を変えようとしてるんだな、ってことが怖いくらいに脳髄と肌にビシビシ伝わってきたのは、レイジだけかなぁ。
こんなテンションとアティテュードではたして続くのかなって思っていたら、ザック脱退でやっぱり解散。
そらそうだよなぁって思った記憶があります。
ザックのラジカルな主義主張を支えるのに、バンドっていう共同体では無理だったんだろうな。
むしろこのバンド・コンセプトで一緒に活動出来ていたこと自体が、奇跡なんだと思う。

発表したアルバムはどれも名盤だし、ライヴは毎回命懸けっていうか、全身全霊だったし。
どこを切っても尊敬しか出てこない、とてつもないバンドです。

残された3人は、サウンドガーデンのクリス・コーネルをボーカルに迎えてオーディオスレイヴを結成。
政治的メッセージは歌わない」と宣言して、正統派のハードロック・バンドとして活動していくことになります。

ちなみに、再結成した後の2008年の来日公演、見に行きました。
うん、パワーダウンというか、かつて持っていた彼らのポテンシャルとは遠くて、ちょいと寂しかったなぁ。
あくまで、個人の感想ですけど。
年齢を重ねても純粋な気持ちをキープし続けることの難しさもまた、レイジから教わったな。

今作が発売されたのは、もう30年以上も前。
でもその存在と音楽は、ロック史においては当然のこと、政治的な面でも重要な一篇であり不滅です。
今のアメリカ、ひいては世界で現在においてもより重く響くという事実を、聴く度に実感しています。

 

今回も最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
それではまた、次の名盤・名曲で。

\\  良かったらシェアしてください!  //
\\良かったらシェアしてください!//
Facebook
Twitter
LinkedIn
Email
この記事を書いた人
Picture of Kazuki
Kazuki

合同会社Gencone GANNON運営代表