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グラムとR&Bの混血児、ロックを悪ガキの手中に取り戻したニューヨーク・パンクの導火線。

グラムとR&Bの混血児、ロックを悪ガキの手中に取り戻したニューヨーク・パンクの導火線。

目次

New York Dolls/S.T.

1973年作品

収録曲:A面

①Personality Crisis(人格の危機)
②Looking For A Kiss(キスを求めて)
③Vietnamese Baby(ベトナム落とし児)
④Lonely Planet Boy
⑤Frankenstein

収録曲:B面

⑥Trash(払い落とせ!)
⑦Bad Girl
⑧Subway Train(地下鉄)
⑨Pills
⑩Private World
⑪Jet Boy

そもそもロックンロールやパンクって、何なんだろうって考えた時に。
個人的には、偉大過ぎる詐欺だと思ってます。
めちゃくちゃ夢中になって、レコード聴いたりライヴ映像見たりしてるけど。
あれ?落ち着いて考えたら何でこんな変なの、かっこ悪いものがかっこ良く見えちゃってんだろ?みたいなの、ない?笑
勢いだけで、演ってない?
チューニング、ズルズルで適当過ぎない?みたいなさ。
勿論、緻密に計算された、嫌味ひとつないバカテクの完璧なアンサンブルのバンドもいるけど。
レッド・ツェッペリンにジミヘン、ポリスもレディオヘッドも。
でもそうじゃなくて、いたいけな少年少女を騙すもの。
両親から全く理解を得られなくて、怪訝な顔をされるもの。

それが、ローリング・ストーンズを頂点にするロックンロールだったり。
ニューヨークとロンドンで生まれた、パンクだったりするのかなと。

そんなニューヨーク・パンクの原点と言われる、ニューヨーク・ドールズのデビュー作が今作です。
前回、ロンドン・パンクの導火線を書いたので、今回はニューヨークにしました。

※ドクター・フィールグッドについては、こちらもどうぞ

ニューヨーク・ドールズ結成から、今作誕生まで

やっぱりね、アルバム名にバンド名をそのまま冠した作品は、どれもエグいんですよ。
コンセプトやスタンス、メッセージや音像。
これが俺達だぜ!ってな意思表示になってるよね。
後になって代表作になる筈っていう自信、名刺代わりの1枚の意味合いもあると思う。

1970年代初頭のロック・シーンは、アメリカもイギリスもひとつの岐路に立ってました。
60年代末のカウンターカルチャーの理想は次第に薄れて、オルタナティブな価値観よりも商業性や技巧性が求められる時代へと移行しつつあって。
レッド・ツェッペリンやクリーム、ディープ・パープルに代表される、ハードロックの隆盛。
また、エマーソン・レイク&パーマー(ELP)やイエスに象徴されるプログレッシブ・ロックが、複雑さと壮大さを競い合ってました。
アート・ロック、アルバム主体のロックだよね。
インプロヴィゼーションが特徴っていうか、もはや前提で。
ラジオのオンエアを意識した、キャッチーで楽曲の長さに縛られるような音楽。
そんなのもう古いぜ!ってやつ。

その一方で、ベトナム戦争による社会的な閉塞感は、それに伴う若者たちの間に虚無や怒りが生まれてもいて。
ちょうど、フラワー・ムーヴメントも落ち着いてきた時期。
着飾るのはやめて、自然の流れに任せて生きて行こう。
「愛と平和がスローガン」っていうひとつの流行りが、収束しつつあったんだよね。

伝統的なブルースやフォークを基調としたロックで、次々とヒット曲を量産。
やがてはハードロックとヘヴィメタルの元祖と呼ばれて、アート・ロックにまで音楽の可能性を拡張したレッド・ツェッペリン。

※ツェッペリンのデビュー作については、こちらもどうぞ

そんな中、今も昔も混沌としたエネルギーがごった返す都市、ニューヨーク。
特異な音楽的温床であるこの街は、グリニッジ・ヴィレッジに根を張るフォーク・シーンや、アートスクール出身の実験的なバンド達。
そして貧困や犯罪率の高さが生み出す空気感が混ざり合って、異様な創造力をもたらしてた。

ここから生まれたのが、後に「ニューヨーク・パンク」と呼ばれる精神性の萌芽なわけです。

話は少し、逸れるけど。
70年代初頭のイギリスで、グラマラスを語源に生まれた「グラム・ロック」(諸説あり)。
キラッキラの衣装を纏って、ドギツイ化粧を施してロックを鳴らす。
デヴィッド・ボウイや、T.レックス、モット・ザ・フープルがその代表格です。

結局ね、「おいロック、このままでいいのかよ」って。
「たかがロック如きがさ、アートぶるなよなー」みたいなさ。
そういうの、あったと思うんだよね。

ニューヨーク・ドールズはそんな混沌とした、文字通りニューヨークの片隅で1971年に結成されました。

中心人物はボーカルのデヴィッド・ヨハンセン(以下、ヨハンセン)と、ギターのジョニー・サンダース(以下、ジョニサン)。
ブロンクス出身のジョニサンは、初期のローリング・ストーンズやR&Bに強く影響を受けたラフなギター・プレイが持ち味。
そこにベースのアーサー・ケイン、ドラムのビリー・マーカス(ドラッグで死亡、ジェリー・ノーランに交代)が。
そしてジョニサンとは対極のポップ・センスを持つ、ギターのシルヴェイン・シルヴェインが加わることで、黄金期の形が整います。

もともとロックなんて、チンピラがスキャンダルを振り撒いてナンボの世界でしょ。
目立って騒動起こして、大人達が眉をひそめたらこっちのもんでしょ。

全員長髪、男娼みたいな化粧をして、高いハイヒール履いて口紅も塗っちゃおうぜ。
眼を引くド派手な衣装を着て、馬鹿でも分かるシンプルなロックンロールを大音量で鳴らそうぜ。
小難しさなんて、要らない。
ただずーっと、3コード、8ビート、約3分間、の三種の神器。

超ゴキゲンに、ロック・アンド・ロール。

当初からグラム・ロック的な装いで注目を集めたけれど、その音楽性は腰が抜ける程に雑多で危険。
まさにストリートから這い出てきたような、タフなロックンロールだったこと。
これが、めちゃくちゃカッコいいわけよ。

今では伝説的なライヴハウス、CBGBやマクシズ・カンサス・シティでの評判が広まって、1973年に遂にデビュー。
プロデューサーには、名手腕トッド・ラングレン。
グラムとR&Bの混血児にして、後に「ニューヨーク・パンクの導火線」と言われる今作の誕生です。

楽曲解説

まずは冒頭①、いきなりぶっ飛ばされちゃうぜ。
ヨハンセンのシャウトとジョニサンのざらついたギターが炸裂する、代表曲です。
ブレイクからの軽口叩くみたいな口笛、最高。
「人格の危機」っていう邦題も、センス良すぎだし。
この頃の邦題ってセンスあってワクワクしたよね、聴く前に題だけで勝手にイメージしたりして。
「Toys In The Attic=闇夜のヘヴィ・ロック」とかさ。

あとはやっぱり、パフォーマンスがとにかくカッコいい。
ヨハンセンは完璧といっていい程に、ミック・ジャガーだし。
顔やフォルムは勿論、クネクネしたトンマな動きっていうのかな。
ヘタウマなボーカルも、そうだし。
そしてジョニサン、こっちはキース・リチャーズ。
佇まいもルックスもクール、イケメン過ぎでしょこれ。
この両看板が揃い立って、ストーンズのスタイルをこれでもかと誇張した盛りまくったサウンドとパフォーマンスは、そりゃあプログレやシンガーソングライター系に飽き飽きしてたキッズ達の脳天をカチ割るってなもんですよ。

※今作発表の1年前に、ストーンズが発表した名盤についてはこちらもどうぞ

オーソドックスなギター・リフに乗せて、「ドラッグなんて要らない、欲しいのはキス」という甘酸っぱくてロマンチシズムに溢れた②。
サックスとアコースティック・ギターが切ない、異色のバラード④も素晴らしい。
ヨハンセンのボーカルが甘さと哀愁をたたえて、孤独を美しく歌い上げる側面も魅せてくれる。

続く⑤は、これぞニューヨーク・ドールズ!
パンクビートに、歪んだツイン・ギターが炸裂しまくり。
これ、まんまセックス・ピストルズだよね。
勿論、ピストルズ側が意識したっていうかパクったんだろうけど笑。
ちなみに、ピストルズの仕掛け人であるマルコム・マクラーレンは、後期ニューヨーク・ドールズのマネージャー。
そこで学んだノウハウをイギリスに持ち帰って、ピストルズを送り出すんだよね。
ニューヨークのみならず、ロンドンにも影響を与えたこの功績は、本当に偉大。

グラム・ミーツ・パンクな⑥、Bメロから徐々に熱を帯びる正にニューヨークの地下鉄⑧、そして個人的にハイライトは⑨。
ロックンロールの生みの親であるボ・ディドリーのカバーでありながら、ニューヨーク・ドールズ流のノイズとエナジーで再構築された、ロックンロール賛歌です

そして恋とバイオレンスが矛盾なく両立する、ジェットな悪ガキ達に相応しいラスト⑪。
ジョニサンのヤケクソ気味のギターに、シルヴェイン・シルヴェインのポップ・センスがキラリと光るぜ。
この組み合わせとバランスが、星の数ほどいたストーンズ・フォロワーと一線を画してる。

B面はこれでもかとゴキゲンなナンバー尽くし、快楽のパンドラの箱のような全11曲です。

影響と遺産

ロック史において、「もしも」はご法度だけど。
もしあと数年早く登場してたら、デヴィッド・ボウイやT.レックスと並んで、伝説的なグラム・ロックとして扱われていたかも。
逆にあと数年遅かったら、ラモーンズやパティ・スミスといった面々と、ニューヨーク・パンクのビッグ・ネームになってたかな。
1973年っていう中途半端なデビュー年は、バンドにとって幸福だったんかね。
どうなんだろう。

今作は、商業的には大きな成功を収めなかったけれど、その影響力は計測不可。
翌年の2ndアルバムを発表してあっけなく解散、それをヤンチャな愚か者達の敗北っていう人もいるだろうけど。
粗雑で過激、でもどこか切実なサウンドと佇まいは、後にラモーンズやパティ・スミス、テレヴィジョンといったニューヨーク・パンク達に多大なインスピレーションを与えたわけで。
ポップ・アートの旗手アンディ・ウォーホルは、ニューヨーク・ドールズのことを「ニューヨークの宝」って言ってたし。
まぁ気分屋で激情家の大御所だから、たまたま高揚してはずみで言っちゃっただけかもしれないけどさ笑。
実際、あんなに目を掛けたヴェルヴェット・アンダーグラウンドにも直ぐ飽きたし。

※ヴェルヴェッツのデビュー・アルバムについては、こちら


そんなヴェルヴェッツのリーダー、ルー・リードを始めとして。
グラム・ロックのシンボルである、デヴィッド・ボウイ。
そしてあらゆる模倣の対象である、ミック・ジャガーといったビッグな面々が、ニューヨーク・ドールズを大絶賛。
演奏技術よりもアティチュードを重視した、整った楽曲よりも生々しい衝動をこれでもかと打ち出したロックンロールが、ハートを撃ち抜いたんだよね。

これこそが、のちのニューヨーク・パンクにとって決定的な遺産になりました。

加えて、グラム・ロックの美意識とストリート感覚のミックスは、セックス・ピストルズやクラッシュ、ダムドといったUKパンク勢にも波及していく。
若き少年少女たちを、コロッと騙していく笑。
それで良いんだよ、それはきっと正しいこと。
1980年代、またしても退屈なロックが幅をきかせてたイギリスで同じような状況の中で出現した、ザ・スミス。
ボーカルのモリッシーはニューヨーク・ドールズの信奉者で、ファンクラブのイギリス支部長を務めてたし。
27年ぶりの2004年の再結成は、彼が方々を走り回って実現させました。

ニューヨーク・ドールズは、1970年代のアメリカにおいて「次のフェーズ」のロックを模索した先駆者であって、その衝動と混沌は今聴いても色褪せるどころか衝撃的。
今作の登場がなければ、パンクはこれほど早く形を成さなかったかもってくらい、ターニング・ポイントになったわけです。

余談

使用楽器

・ギブソン・レスポール・スペシャル

ジョニサンのギターといえば、ギブソン・レスポール・ジュニア・ダブルカッタウェイがトレードマーク。
通称「TVイエロー」って呼ばれる、眼の醒めるような鮮やかな黄色が特徴です。

でもこのギターがメインになるのは、もう少し後になってから。
今作や翌年発表の2ndアルバムの時期は、ギブソン・レスポール・スペシャルを使用。
上記の画像は2nd「悪徳のジャングル」のジャケだけど、確認できます。

レスポール・スタンダードよりもスリムで軽いので、扱いやすい1本。

最後に

「たかがロックが偉ぶってんじゃねえよ、そんな大それたもんじゃないだろ」ってな姿勢。
しかも、この怪しいルックス笑。
それなのにステージ内外で刹那的なパフォーマンスに終始したことも、徒花みたいで魅力的なんだな。
社会的な常識や権威に対して偽りなくNOを叩きつけていたし、同時に偽者とか紛い物に対しては、真実味ももたらしてた。
本人達がどう思ってたかはあれだけど、そもそも反骨精神や反面教師として生まれたロックが、いつの間にか社会的な地位や合意を手にしちゃって。
マーケットやエンターテイメントとして肥大化していく中で、本来のある種の正しい在り方と方向性への歯止めになったんじゃないかな。
軌道修正じゃなくって、歯止めってのが良くも悪くも限界なんだけどね。
それがパンクであって、ニューヨーク・ドールズやドクター・フィールグッドの結果的な役割だったんだよ。

ラウドでバイタルな今作は、理屈と退屈に飽き飽きしてたキッズ達の手にロックンロールを見事に取り戻した。
それでいて繊細なシリアスにも、単純なエンターテインメントにも片寄らない。
絶妙な王道を真っ正直に貫いたニューヨーク・ドールズは、実は非常にレアな存在でもあったわけで。
はみ出し者や敗北者が、享楽と栄光を掴むもの=ロックンロールっていう方程式の奇跡と。
ニューヨークとロンドンのパンクスを叩き起こしたっていう軌跡を、同時に掴んだオンリーワンなバンドだったんだよね。

今回も最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
それではまた、次の名盤・名曲で。

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