合同会社Gencone

らしさとは真逆の彼方で誕生したエヴァーグリーンは、唯一無二の圧倒的な美しさを放つ。

らしさとは真逆の彼方で誕生したエヴァーグリーンは、唯一無二の圧倒的な美しさを放つ。

目次

The Velvet Underground/S.T.

1969年作品

収録曲:A面

①Candy Says
②What Goes On
③Some Kinda Love
④Pale Blue Eyes
⑤Jesus

収録曲:B面

⑥Begining To See The Light
⑦I’m Set Free
⑧That’s The Story Of My Life
⑨The Murder Mystery(殺人ミステリー)
⑩After Hours

アルバム名に、バンド名をそのまま冠した作品はいくつかあるけれど、もれなくそのどれもが名盤。
コンセプトやスタンス、メッセージや音像なんかが、これがうちらだぜ!ってな意思表示になってるよね。
後になって代表作になる筈っていう自信、名刺代わりの1枚の意味合いもあると思う。

※レッド・ツェッペリンがバンド名を冠したアルバムについては、こちらもどうぞ
※レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンについては、こちら

今回紹介するヴェルヴェット・アンダーグラウンド(以下、ヴェルヴェッツ)もまた然りで、3rdにして満を持してバンド名を名付けました。
まぁ、1stでもそうだったんだけど、あれにはニコがオマケで居たから笑。
歴史的な作品には、変わりないんだけどさ。

それまで双璧のひとつだったジョン・ケイル(以下、ケイル)が抜けて(というか追い出して)、ルー・リード(以下、リード)が遂に主導権を獲得。
ロック界におけるギター・ポップの始まりを見事に生み出すことになったんだけど、またしても評価は芳しくなくて、セールスにもそのまま反映されて結果大コケ。
ここまで来るともはや可笑しみすらあるよね(失礼!)、それでもヴェルヴェッツのアルバムはどれも大好物な筆者にとって、最も好きなフェイヴァリットが今作です(オリジナル・タイトルはセルフ・タイトルだけど、便宜上ここでは通称名である「ヴェルヴェット・アンダーグラウンドⅢ」)

前作「ホワイト・ライト、ホワイト・ヒート」発売から今作誕生まで

リードの詩的かつストリート感覚に溢れるソングライティングと、ケイルのクラシックとアヴァンギャルド音楽を背景に持つ鋭い実験性が、極限の緊張感を楔に見事に融合して生まれた唯一無二のロックンロール。
それが、ヴェルヴェッツなわけで。

けれどケイルの実験志向は前作の2nd「ホワイト・ライト、ホワイト・ヒート」で頂点に達し、その過激さは名盤の誕生と同時にバンド内での亀裂を生むことに。

※前作について、こちら

特にリードは、自身のルーツであるフォークに根差すような、よりメロディックで感情を抑えた表現に傾倒し始めた時期。
タイミングも、悪かったんだな。
だからケイルの過剰なノイズや即興性を、制御不能で邪魔くさく感じちゃった。
加えて、当時のマネージャーもリード寄りのスタンスを取ったもんだから、結果としてケイルはバンドを去ることになった。
脱退に反対した残されたメンバー、スターリング・モリソン(以下、モリソン)とモーリン・タッカー(以下、タッカー)の意見を半ば無視して強行突破したくらいだから、余程だったんだろうね。
しょうがないよ。
相反する強烈な個性を持った、常に互いを意識し合う同士によって伝説を残して、そして別れが訪れるのはどの世界でも一緒。
ロック史なんて、そんなのばっかりだし笑。

ここで代わりに加入したのが、リードと旧知の友人であったダグ・ユール(以下、ユール)。
ユールはケイルほどの強烈な個性を持たないものの、温かみのあるボーカルと安定した楽器演奏力を持ってたから、リードの新たな音楽的方向性に寄り添う存在となった。
ミュージシャンとしての力量と、穏やかで実直な人間性がリードに合ってたんだろうな。
付き合い易いっていうかさ。
ケイルに言わなかったようないろんな話も、リードはユールにはしてたってタッカーも言ってたし。
まぁそもそも、リードが天才故の気難しさと繊細性が過ぎたってだけなんだろうけど笑。
要は、面倒くさい人。

こうして1968年末から1969年初頭にかけて、ヴェルヴェッツは新たなラインナップでレコーディングを開始。
ホーム且つ代名詞でもあったニューヨークを離れて、ロサンゼルスで制作された今作は、前2作とは異なって、パーソナルかつ内省的な仕上がりに。
空港でエフェクターの入った機材箱が盗まれたんだけど、今作ではクリーンなサウンドが主軸だからと問題視しなかったことからも、それまでとは違った音楽的転換を目指したことが分かります。

では、それまでのバンド・カラーだったアヴァンギャルドを離れて、静謐で繊細な世界観を志向した世界初のギター・ポップ・アルバムを聴いていきまっしょい。

楽曲解説

アルバム冒頭曲①は、ホルモン注射が原因のガンで亡くなった、トランスジェンダーの俳優キャンディ・ダーリングを題材にした1曲。
あれ?なんかリードのボーカル、ねちっこくないなぁ、あの独特の毒味のある響きがないなって思わなかった?
いきなり、これまでと違う感じ出してきたなーって。
それもその筈、リードは新加入のユールがボーカルを取ることを提案。
結果、柔らかく包み込むような声がキャンディの孤独や儚さ、決して手の届かない物への苦悩を見事に表現しました。
あえて自分ではなくユールに歌わせることで、第三者的視点とほろ苦くも真っ直ぐな感情を両立させたんだよね。
繰り返される「What do you think I’d see?=何が分かると思う?」という問いは、人間の根源的な不安を浮き彫りにすると同時に、リード自身が心身との折り合いの自己探求の反映でもあります。

ちなみにこのキャンディ、リードがソロになってからの代表曲「ワイルド・サイドを歩け」にも再登場しちゃうんだぜ。

続いて②、そして盤を引っ繰り返して冒頭⑥は、屈指のロック・ナンバー。
ザクザクと刻む中毒性の高いリフ、サイケデリックを内包しながらもポップさを失わない、正にヴェルヴェッツの十八番だね。
3コード以上は禁止!みたいな笑。
ユールのコーラスと安定したプレイが曲全体にもたらすグルーヴ感も、今作の特徴。
ライヴでも人気で定番曲でもあることから、リードもお気に入り。
ザ・フィーリーズやトーキング・ヘッズが②を、ジョナサン・リッチマンが⑥からの影響を語っています。

今作のハイライトのひとつとも言える、バラード④。
リードにしては珍しいパーソナルな楽曲で、かつての恋人との経験を元に書かれました。
未練と痛みと苛立ちを包みなく歌い、それを繊細なギターと控えめなドラムが楽曲の哀愁を深めていく。
「人生で最も影響を受けた曲」と語るR.E.M.のマイケル・スタイプを始め、パティ・スミス、G.ラヴやキルズ等数多くのカヴァーがあります。
そんな沢山の人に息を吹き込まれた中で、リードが一番好きと言ったのは、タッカーが後に自身のソロ・アルバムで歌ったもの。
これまた素晴らしい、めっちゃ良い。

宗教をテーマにしながらも、説教臭さは全くなく、そしてA面のラストを飾るのは、ウィルコとヨ・ラ・テンゴがフェイヴァリットに挙げる⑤。
今作がそれまでのヴェルヴェッツらしさ、とは対極にあることを示すような、脆さと希望が歌われた美しい1曲。
だってさ、1stで「ヘロイン、それは俺の妻であり人生」って歌ってたのが、「神様、俺の居場所を見つけておくれ」だもん。
けれど正反対の方向に一変したとかではなく、これもまたリードの一面。
それが、魅力なんだな。
⑥も、「光が見えてきた、さぁ行こうぜ」だしさ笑。
楽しそうに歌ってるし。

ソニック・ユースのサーストン・ムーアも影響を受けた⑦を挟み、締めくくりに相応しい⑨⑩。

まずは⑨、ケイルを思わせる実験的な異端作。
リードとタッカーがそれぞれ交互に歌詞を読み上げる、これぞカオス。
リード曰く、聴く人が2つの正反対の感情を同時に持てるものなのかという、興味から作ったとのこと。
あくまで、ラジカルな男ですよ。
丸くなるだなんて、この男には無縁ですよ。

そしてラストを飾るのは、タッカーがボーカルを取る可愛らしい⑩。
アルバム全体の緊張感をほぐし、暖かい余韻を残して針が戻るのがたまらんぜ。
僅か2分というサイズも、心地良い。
リードもその自覚はあったみたいで、あまりに純粋で無垢な曲だから自分では歌えなかったとのこと。
R.E.M.、レッチリ、ベイビーシャンブルズ等、これまた多くのカヴァーがあります。

影響と遺産

前述したように、今作は発表当初は商業的成功にはやっぱり恵まれず。
でも時間の経過、時と共に評価が変わって影響力を放つのもまた、世の常なんだよね。
そんなの、寂しいけどさ。

それでも前作から激変したこのフォーキーなバラッドのみが収録されたアルバムは、例えばガレージやオルタナにおいては、そのメロディ・ラインと実直な歌詞が。
インディーやシンガーソングライターにおいては、内省の美学と個の解放が。
アルバム全体に漂う静謐な美しさと人間味あふれる世界観は、元祖ギター・ポップとして数多くのミュージシャンに影響を与えることとなったんだよね。
ベル・アンド・セバスチャンなんか、モロだし。

それはシンプルで絶対的な、「楽曲の普遍性」だと思う。

誰もが顔をしかめた、倒錯した愛もドラッグも。
誰もが耳を塞ぎたくなった、ノイズの雪崩も。
そんなアヴァンギャルドなこれまでに鳴らされてきた衝動は、今作では前面に出てないもんね。
代わりに在るのは、普遍的な人間性。
それでも、異様なまでの美しさだけは相変わらず当たり前に存在している。
ただのモンスターには収まらない、ヴェルヴェッツの奥深さの象徴のような1枚だと思います。
売りだった激しさが文字通り鳴りを潜めたことで、逆にその存在感がより強くなって、今なお多くのリスナーのハートを、静かに揺さぶり続けてるんです。

余談

使用楽器

・フェンダー製12弦エレクトリック・ギター

モリソンが言うには、今作のほとんどの楽曲で、リードと共にフェンダーの12弦のエレキ・ギターを使用したらいいんだけど・・。
すみません、色々と検索はしたんですが全然画像が見つからなくて。
とりあえずリードが12弦のエレキを持ってるのだけは確認できたので、上の画像を載せておきます。
でもこれあれだよな、多分ギブソンだよなぁ。

なんか、諸々申し訳ございません。

でもこのサウンドが、今作の細部まで神経の行き届いた贅沢なアレンジに仕上げています。

最後に

今作制作中に、自分がヴェルヴェッツとして他の3人と過ごした時間は最高だった、と新メンバーとして加入したユールは後に語っています。

ヴェルヴェッツというロック・バンドのキャリアにおいて、一番結束力がって、心穏やかにゴキゲンに、ある種ニュートラルに音楽に向き合えた時期ってことなんじゃないかなぁ。

そんじょそこらの薄っぺらいギター・ポップとは、絶対的に一線を画してるもん。
ミュージシャンなら誰もが1度は目指すであろう、エヴァーグリーンな香りと響きを、圧倒的なまでに放つ大名盤は、こうして生まれたのでした。
本物の普遍性と、嘘なんかひとつもない悲しさと強さを纏いながら。

そして次作の4枚目のアルバム「ローデッド」が、ヴェルヴェッツの実質的なラスト・アルバム。
これが発売される前に、心身共に疲れ果てたリードは突然失踪して、そのまま脱退しちゃいます。
それによって、リーダーシップを発揮したのがユール。
人間関係やエネルギーの変遷って、面白いよね。
そしてリード不在の中、「ローデッド」は皮肉にもヴェルヴェッツ史上最も売れたアルバムになった。
勿論全作品が傑作だから、これまた名盤になってます。
筆者の周りでも、フェイヴァリットに挙げる人多いし。
いつか、書きたいと思います。

今回も最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
それではまた、次の名盤・名曲で。

\\  良かったらシェアしてください!  //
\\良かったらシェアしてください!//
Facebook
Twitter
LinkedIn
Email
この記事を書いた人
Picture of Kazuki
Kazuki

合同会社Gencone ナラセル運営代表

関連記事