合同会社Gencone

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ならず者達の泉は、 何度汲んでも。枯れることも、尽きることもないんだ。

目次

The Rolling Stones/Exile On Main St.

1972年作品

収録曲:A面

①Rocks Off
②Rip This Joint
③Shake Your Hips
④Casino Boogie
⑤Tumbling Dice(ダイスをころがせ)

収録曲:B面

⑥Sweet Virginia
⑦Torn And Frayed
⑧Sweet Black Angel(黒いエンジェル)
⑨Loving Cup

収録曲:C面

⑩Happy
⑪Turd On The Run
⑫Ventilator Blues
⑬I Just Want To See His Face(彼に会いたい)
⑭Let It Loose

収録曲:D面

⑮All Down The Line
⑯Stop Breaking Down
⑰Shine A Light(ライトを照らせ)
⑱Soul Survivor
「金の斧、銀の斧」って童話があるよね。
きこりが泉に大事な商売道具である斧を落として困ってたら、女神様が拾ってくれた。
しかも自分の斧ではなくて、金の斧と銀の斧を持って現れた。
自分の斧ではないと答えると、正直であることを褒美に、3本全ての斧を貰えたっていうお話。
 
これをモチーフにした、ドラえもんの秘密道具「きこりの泉」。
ジャイアンが欲張って古い玩具を大量に泉に投下しようとしたら、誤って自身が泉にイン。
女神様が、きれいなジャイアンを持って現れる。
 
何が良いって言うとさ。
まず、「落とし物はこれですか」って訊かれたドラえもんとのび太が。
「いえ、もっときたないの」。
即答。
即答ですよ。
思わず反射的に出た言葉は、本音そのもの。
「きれいなジャイアン」なんか、要らないのよ。
少なくとも、ドラえもんとのび太にとっては。
困るのよ。

そんなん貰っても、困っちゃうのよ。
実際、原作のコマでも2人とも困惑してるし(この表情、最高!藤子・F・不二雄先生は、やっぱ天才だなぁ)。

これと、同じ。

きれいなロックンロールなんて、要らないのよ。
傲慢で、汚らしくて、「おまえの物は俺の物。俺の物も俺の物」。
つまりは、「ならず者」。
ジャイアンも、ならず者だもんね。
なのに何故か、かっこいい。
かっこ悪いのに、かっこいい。
ってことは、かっこ悪いことが、かっこいいのか?
それが、ロックンロール。
アウトサイダーの、快楽主義者の、ボヘミアンの音楽。
それこそが、ストーンズなんだよ。
 
前回は、ウォーホル繋がりでヴェルヴェッツを書いたんですけど。
予定を変更して、すみませんでした。
今回は、伝えた通り「メインストリートのならず者」を。
 
※ストーンズの前作「スティッキー・フィンガーズ」については、こちらもどうぞ
 
ストーンズの60年以上(!)のキャリアの中でも、最高傑作の誉れが高くて。
個人的にも、フェイヴァリットな作品です。
しかも、初の2枚組。
 

ロックンロールの源泉だけを見つめたストーンズ流の、ルーツ・ロック。
その泉は、何度汲んでも。
枯れることも、尽きることもないのさ。

大名盤「スティッキー・フィンガーズ」発売後から、今作誕生まで

セールス、評価共にしっかりと結果を出して得意絶頂のストーンズは、母国イギリスを脱出してフランスへ。
眼ん玉飛び出る程の税金に、辟易してたんだって。
なのでフランスで今作を制作するんだけど、スタジオはなんとキースの新居。
ネルコートと呼ばれた自宅の地下室で、通称「ネルコート・セッション」が始まります。
勿論、トラックに録音機材を搭載した、お馴染みの移動スタジオは駐車場で待機。
いつでも行けまっせ状態ってことね。

このセッションはキース主導で敢行、でも環境も雰囲気も最悪だったらしい。
地下室は、何もしてなくても汗がダラッダラ。
更には、ドラッグ問題。
ほとんどのメンバーがドラッグ漬けに陥って、作業は難航。
なんたってこの時期は、セックス、ドラッグ、ロックンロールを地で行く絶対王者。
まさに、酒池肉林だったわけで。
今作のジャケを撮影したカメラマン、ロバート・フランクがこの後の北米ツアーを記録したドキュメンタリー映画「コックサッカー・ブルース」。
これは、専用ジェットでのドラッグ・パーティーやグルーピーとの乱交を捉えた問題作です。
ザ・スキャンダラスってやつ。

キース、ホテルの窓からテレビ投げるからね。
ん?テレビが嫌いなのかな?
不快なニュースでも流れてたのかな?と思いきや。
「ガチャンと落ちる音が気持ち良いから」らしい。
もうね、ロックスターってのは凡人には分かりませんよ。

そんな乱痴気騒ぎはネルコート・セッションでもそうで、ドラッグの売人がいつでも売れるように家を取り巻いたなんて話も。
嫌気が差したチャーリーが、欠席を続ける程だったとか。
紳士ですからね、チャーリーは。
こうと決めたら絶対に動かない、真面目一徹なクール・ガイですから。
主導権が自分にないと面白くない、コントロール・フリークのミックの反抗も、もしかしたらあったのかも。

ここで困難な状況を打破して制作を完成に導いたのが、ジミー・ミラー。
「ベガーズ・バンケット」から今作までを手掛けた、敏腕プロデューサーです。

※「ベガーズ・バンケット」については、こちらもどうぞ

プロデューサーとして、ドラマーとして(欠席のチャーリーの代わり)、指導者として。
その手腕を、キースも絶賛。
指示に対して抵抗があるとか、自分の方が上手くやれるとか、そんな悪感情に誰もならなかったくらい、見事だったらしいよ。
やっぱ何でもね、ブレーンとか裏方で右腕な存在って、絶対必要だよね。

結果、当時は評価が低かったけれど(またかよ名盤あるある)、現在は最高傑作との呼び声も高い大名盤が誕生。
「6人目のストーンズ」と呼ばれて今作にも勿論参加してる、ピアノ担当のイアン・スチュワート曰く、「これを聴けば、他のどのアルバムよりもストーンズを理解できるよ」。

またしても全米・全英1位を記録。
当時は2枚組のレコードってまだ新しかったし値段も高かったから、いかに快挙だったかってことが分かります。

楽曲解説

まずは、なーんか間抜けなイントロがクセになるオープニング①。
毎回ね、オープニング・ナンバーは外しませんよ。
あとは前作で確立した、ホーン・セクションとの絡みね。
そこからガチャガチャと、いかにも一発録りな手触りを感じさせる、タイト&ハードな②も気持ち良い。

毎度お馴染み、今作のブルース・カヴァー③。
毎回思うんだけど、選曲のセンスだよね。
スリム・ハーポって笑。
これで知った人、ほとんどじゃない?
ミックとキースのブルースおたく振りが分かる、粋な1曲。
ファッツ・ドミノとか、マディ・ウォータースとか、王道に行かない(行ってるけど)。
⑯は、またロバート・ジョンソンだし笑。
素直な敬愛を示す、まさにブルース伝道師だね。

そして、シングル・カットもされた⑤。
キースの必殺カッティングが全開の、ライヴ定番曲。
この曲と、代表曲「ホンキ―・トンク・ウィメン」を弾く時のキースってさ、いつだって中学生みたいに楽しんでる。
ちょっとふざけてみたり。
これが、たまらないんだな。

個人的に今作のハイライトは、⑥。
牧歌的なイントロ、ガッシガシと丁寧にリズムを刻むアコギのサウンド。
次第に熱を帯びていくミック、グッド・メロディーが光ります。
キースのコーラスも、なんだかエモい。
郷愁溢れるこれぞカントリー、まぁ結局ドラッグを歌ってるんだけどさ笑。

キースと言えばこれ、な代表曲⑩。
あのイントロを弾き始めた瞬間から、曲が終わるまでキースの独壇場。
この3分間だけは、脳内から唯一ミックの存在がフェードアウトする、ある意味贅沢な時間。
ライヴでもド定番、セットリストでは真ん中で演ることが多い気がする。
さぁ、ここから後半戦だぜ!みたいなさ。
今作でも、ちょうどその位置。
まだまだ、いろんな顔を見せていくぜ!みたいなさ。
 
これまたライヴ定番の、⑮。
ゴキゲンなギター・リフ、巧みで絶妙なスライド・ギター、跳ねるピアノ、そしてホーン・セクション。
ストーンズ王道の方程式の、見本みたいなロックンロール。
 
じっくりと聴かせる、⑭⑰⑱も素晴らしい。
こういうので、懐の深さが知れるよね。
後に、盟友マーティン・スコセッシが撮った2008年公開のライヴ映画のタイトルは、⑰から採られたもの。
オアシスの代表曲「リヴ・フォーエヴァー」の最初の1節、「♪メイビ~」のとこも、この曲からパクったってノエルが言ってました。
 
※オアシスについては、こちらもどうぞ

影響と、その後のストーンズ

今作で創出し、現在まで続くストーンズの音楽スタイル。
それは、「ラフでルーズ」。

一聴すると散漫で、18曲もあるのにどれも同じに聴こえるんだけどみたいな笑。
それでも憑りつかれたみたいに何回も盤を引っ繰り返して聴いていると、どの曲も全然違ってくるのが今作の最大の魅力。

だって18曲通して、売れまくったシングル曲、代表曲が1曲もないのよ今作は(あくまで個人の感想です)。
「サティスファクション」「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」「ストリート・ファイティング・マン」「ギミー・シェルター」「ブラウン・シュガー」・・・。
そういうね、1軍がないのよ。
どれも、1.5軍止まりっていうかさ。
でもね、全体として肩の力が抜けてて、纏まりがあって曲順と流れが完璧で、安心して聴けてしまう。
ストーンズに、安心ってのもおかしな話だけど。
キースのチューニングの緩ささえも、見事にマッチしてる必然性が最高にかっこいい。
ドラッグで、ズルズルだったからかな笑。
今作でミックの声がまろやかなのは、テキーラ片手に歌ってるかららしいし笑。

音楽的用語でいうところの意味合いとは違うけど、今作はミクスチャーですよ。
このミクスチャー感覚と、豊かなイマジネーションと強靭な咀嚼力の体現。

これって当時だけに止まらずに、現在も世界最強って言っていいと思う。
だってこの時代、今から50年も前に確立したロックンロールのひとつのスタイルが、全然古くなってないもん。
シンプルに、凄い。
前作で萌芽した「南部回帰志向の理想形」がここに結実して、自信に満ちたストーンズのスタイルとして鳴らされている。
キースが9日間も一睡もせずにレコーディングに没頭したというエピソードも(本当かよ)、今作ならではです。

そして世界最強の称号を手にしたストーンズは、北米ツアーを敢行。
ライヴ作品として発表された「レディース&ジェントルメン」、これがマジでやばい。
個人的に、ストーンズのベスト・アクトだと思ってます。
映像で見るも良し、爆音で聴くも良し。
ストーンズ史上最速のリズムとテンポ、バンドのグルーヴ、何よりガレージばりのミックのヴォーカルがたまらない。
これぞ黄金期、腰が抜けるぜ、脳味噌がパンクしちまうぜ!

ド派手な衣装を着てステージを縦横無尽に駆け回る、ヴォーカル。
咥え煙草でルーズにギターを掻き鳴らす、ギター。
それをタイトなリズム隊が、盛り立てていく。
後に誰もが真似した「ロックンロール・バンドの構図」を世に示したのも、この頃のストーンズだったんだよね。

余談

使用楽器

・フェンダー・テレキャスター(1954年製)

ついに来ました。
キースと言ったらテレキャス、のイメージが一般的なんじゃないかな。
 
この1本は、通称「ミカウバー(ミコーバー)」。
ネルコート・セッションの時に、購入したものです。
バタースコッチ・ブロンドと、ブラック・ピックガードが燦然と輝いているぜ。
 
1981年のライヴ中に乱入してきた客を、フルスイングで殴った有名なエピソードも、このギター。
曰く、「テレキャスは最高の棍棒」とのこと笑。
でもね、「コックサッカー・ブルース」で述べたようないかにもキースらしい悪童エピソードではなくて、当時はジョン・レノン射殺事件の翌年。
だからナイーヴで神経質で、ピリピリしてたんだよね。
セキュリティや不審者に対して過敏だったから、防衛策でかましただけなんだけど。
 
リード・ギターをテイラーに(後にはロニー)任せて、サイドっていうかリズム・ギターに徹していく、現在のスタイルはここから始まりました。
史上最高の、リズム・ギタリストってやつです。
とにかく、「たーのしぃー」みたいに弾くよね笑。
ニカッって笑って、大雑把に弾く。
あれが、本当に魅力的。
キースしか、出来ないもん。
生き様がそのまま出る正直なギターだから、テレキャスって。
何度も言うけど、ただチンタラ弾いてるわけじゃないんだよ。
チンタラ弾いてんだけど笑。
ギターは、テクニックなんかじゃない。
身体で、弾くもんなんだよ。
リード・ギターや速弾きが出来ない奴は下手くそ、なんてそんなことはない。
ジミ・ヘンドリックスだって、めちゃくちゃテクニック凄いけどさ、やっぱりハートで。
身体全体で、弾いてるもんね。
 
ブリッジは、ブラス製のものに交換。
勿論、5弦のオープン・チューニングを固定する為です。
数え切れない程のセッションやレコーディング、ライヴで使用されてきた現在でも相棒の1本。

最後に

なんて言うの、白黒はっきり付けない感じ。
時代と共にルールが変わっていくのはそうなんだけどさ、でもそれよりも大事なもの。
フレキシブルな感覚っていうか、気配りとかマナーなわけで。
今はそれが薄らいでる世の中だから、白黒はっきりできっぱりなルールが増えるんだろうけど。
でもそれだと縛りがきつくなって、遊びが減っちゃうよね。
 
うん、遊び心なんだよね。
混沌としたエネルギーが、アルバム全体に満ちている。
ロックンロール・ライフを地で行くパワーを、しっかりと捉えている。
でも遊び心というか、向こう見ずと確かな自信が矛盾することなく、同時に鳴っているっていうかさ。
そんなじんわりとした熱気が、深みとリアリティを与えてる。
今作は、ストーンズが単なるビッグ・バンドじゃなくて、冒険心とルーツ探求のならず者集団であることを、証明した大名盤だと思う。
 
次作は、1973年作品「山羊の頭のスープ」。
よくね、70年代のストーンズは自分達のスタイルの焼き直しでしかない、とか言われたりするんだけど。
だからこそ、今作の評価も当時は低かったんだけど。
そもそも70年代ロックのダイナミズムを生み出したのが、ストーンズなんだから。
ロックはパンクが登場するまで、このストーンズの強烈なまでの呪縛から、逃れられなかったもんね。
でもストーンズは、1978年作品「女たち」でパンクへ返答もしちゃってる。
 
誰よりもクレバーで時代を捉えるのが上手いミックと、あくまでルーツから抽出して自分のスタイルに昇華するキース。
 

だからブルースから始まって、スワンプからレゲエ、ディスコまで。
ただ流行ってるから演ってみました、ではなくて、必ずそれをストーンズ流に再構築することが出来た。
それはパンクだろうがニューウェイヴだろうが、例外じゃなかった。
だから生涯現役、まだまだ健在を見せつけ続けられたんだよね。

ルンルンと、軽やかにまろやかに。
そして能天気に、時には不謹慎に行こうぜって。

快進撃と名盤連発は、この後も続いていくのさ。

今回も最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
それではまた、次の名盤・名曲で。

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この記事を書いた人
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Kazuki

合同会社Gencone GANNON運営代表

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