合同会社Gencone

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この男を神様と慕うロックンローラーは、星の数。あなたにも、神様入門の最適盤を。

目次

The Byrds/The Byrds Play Dylan

1979年作品

収録曲

①All Really Want To Do
②Chimes Of Freedom(自由の鐘)
③It’s All Over Now、Baby Blue
④Lay Down Your Weary Tune
⑤Lay Lady Lay
⑥Mr.Tambourine Man
⑦My Back Pages
⑧Nothing Was Delivered(なにも送ってこない)
⑨Positively 4th Street(寂しき4番街)
⑩Spanish Harlem Incident
⑪The Times They Are-A Changin’(時代は変る)
⑫This Wheel’s On Fire(火の車)
⑬You Ain’t Goin’ Nowhere
⑭It’s Alright Ma、(I’m Only Bleeding)
⑮Just Like A Woman(女の如く)
⑯Lay Lady Lay(Alternate Version)
⑰The Times They Are-A Changin’(Early Version)
⑱Mr.Tambourine Man(Live)
⑲Chimes Of Freedom(Live)
⑳Paths Of Victory(勝利の道)
「ダレ…デスカ?」
「知らない?ボブ・ディラン。♪ジ、アンサー、マイフレン、イズ、ブローウィインザウィン…」
「コタエ、カゼノナカ…デスカ?」
「そう。あたしの知り合いにね、ディランを”神様”だって崇めてる奴がいて」
 

(映画「アヒルと鴨のコインロッカー」のワンシーンより)

今回は、ロックを語るなら避けては通れないこの男。
ボブ・ディラン(以下、ディラン)。
神様、です。
 
前回のブログで、1963年のビートルズのデビュー盤をきっかけにポピュラー音楽史が大きく動いたことを書きました。
※「プリーズ・プリーズ・ミー」については、こちらもどうぞ
 
そして1964年、3rdアルバム「ハード・デイズ・ナイト」がアメリカに上陸したことで、所謂「ブリティッシュ・インヴェイジョン」の幕開け。
文字通り「イギリスの侵略」で、ビートルズを始めとしたイギリスのビート・バンド。
ストーンズ、ザ・フー、キンクス、アニマルズ、ヤードバーズ等の英国バンドがアメリカでレコード・デビューして、ヒットチャートを席巻していく。
この偉大なバンド達に共通するのは、バックグラウンドがアメリカ産のブルースやR&B、すなわち黒人音楽だったこと。
なんだけれど、アメリカの白人リスナーのほとんどが、ブルースやR&Bを知らなかったのよ。
それもその筈、当時は黒人差別が州によってはまだ根強く残っていた時代。
選挙権は与えられていたけど、レストランやトイレ、バス等の公共施設で、「黒人お断り」「白人専用」が存在してた。
だから、黒人音楽を聴く白人は少なかったんだよね。
 
そんな時に、邦題「ビートルズがやって来る!」の如く突然訪れた「イギリスの侵略」。
英国産のロック・バンド達は、黒人音楽に偏見がなかった。
寧ろ、リスペクト。
素直にその素晴らしさを認めて、自ら喜んでカバーしてプレイして、アメリカで頭角を現していく。
そんな中、ビートルズやストーンズに決定的な影響を与えた男が登場します。
それが、ボブ・ディラン。
神様、です。

イギリスの侵略 meets 神様

ディランの何が、英国産のロック・バンドと違っていたのか。
 
アメリカのコーヒーハウス等で生まれたフォーク・シーンからデビューしたディランは、「君が好きだよベイベー」みたいな単純なラヴソングとは、明らかに一線を画してたんだよね。
ビートルズが、「あの娘は君が好きだよ、イェー、イェー、イェー」って大ヒットさせてた時に、政治の矛盾を、戦争の悲惨さを、核の時代に生きる不安を、人生の理不尽と儚さを歌ってた。
しかも「歌って踊れる旅芸人」の、放浪スタイルで。
こうしたディランが書く詩の世界が、ロック・シーンを大きく変容させていきます。
それを表したような、ディランの言葉。
 
「俺が歌を書き始めたのは、どこにも歌いたい歌が見つからなかったからだ。見つけていれば、自分で作ったりはしなかった」。
 
一方で、ディランもまたビートルズから影響を受けるんだよね。
「フォーク界のプリンス」って呼ばれてたディランは、実は根っからのロックンロール好き。
エレキ・ギターも大好きで、ビートルズとハッパをふかしながら(個人の想像です)音楽談義をして、ふと思いついた。
フォークの歌詞をロックのサウンドに乗せて歌えば、まさに鬼に金棒。
最高にかっこいい音楽の誕生じゃん、って。
これが原因で、後に有名な「裏切者!」事件が起きるんだけど。
 
そして同時期に、もう一人の男が登場します。
それが今作のザ・バーズのリーダー、ロジャー・マッギン(以下、マッギン)。
マッギンもフォーク・シンガーだったんだけど、ビートルズの衝撃を受けてエレキを購入。
フォークとロックの融合こそが、新しいロックの世界を創造できる筈だと、後にディランの代表曲になる⑥に目を付けた。
それくらい1960年代中期において、ビートルズとディランは決定的な存在だった。
まずは、速いテンポの原曲のリズムをゆるーく解体。
次にビーチ・ボーイズ風のサーフィン・サウンドに、12弦のエレキ・ギターをアルペジオ奏法で紡ぐ。
最後に、フォーキーなハーモニーと深いエコーをかけて出来上がり。
 
このカバーは「フォーク・ロック」の原型と呼ばれて、ここから数年間に渡ってアメリカン・ポップスの主流となるわけ。
シングル⑥の発売=フォーク・ロックの誕生となった1965年から、本格的なアメリカン・ロックの時代が始まります。

何故、今作がディラン入門に適しているのか

筆者は、2014年のZeppでの来日公演で初めて神様ディランと対峙。
お目にかかれて、大変光栄だったわけだけど。
 
普通さ、ボーカルってステージのセンターに立つじゃん。
違うのよ、やっぱ神様の御心は凡人には理解不能なのよ。
センターに立った人、あれ?なんか違うなと思ってるうちにライヴが始まって。
歌が聴こえてきて、どこからだろ?ってステージの右手を見たら。
ハットを深く被って、こじんまりとピアノを弾きながら歌ってるのがディランだった笑。
センターちゃうんかい!ってのと、ギターちゃうんかい!ってのでいきなり衝撃くらったもん笑。
 
しかも、どの曲も原曲を留めてなくて、何の曲を歌ってるのか最後まで分からなくて笑。
確かどっちもアンコールだったと記憶してるんだけど、唯一分かったのが「風に吹かれて」と「ライク・ア・ローリング・ストーン」。
それは分かるだろってツッコミ入るだろうけど、もうメロディもあったもんじゃなくて(これ褒めてます、信者ですから笑)、かろうじて歌詞で分かっただけで。
だってさ、ロック史に残るスーパー×100の代表曲「ライク・ア・ローリング・ストーン」、レコードに刻まれたあの節で歌わないのよ?
♪ライクアロ~リン、スト~ン!って、歌わないのよ。
ボソボソ、ボソボソって終始歌ってさ。
最後の決めフレーズまで、ボソボソ笑。
こんなのが許されるのは、様になってしまうのは。
音楽史長しと言えど、ロック界広しと言えど。
ディランだけ。
これまた、新たな伝説になるっていうかさ。
 
そんなディランの歌は、まさに個性的。
レコードで数々の大名盤を聴いても、最初は単調に聴こえちゃうんだな。
なんか田舎臭い歌声で、本当に若い人が歌ってんの?ってびっくりする。
節もないし、しわがれた声で朗々と読んでるだけみたいで。
筆者が初めて聴いたのは高校時代、アルバムは「グレイテスト・ヒット第1集」。
全10曲だったかな、しかもベスト盤の筈なのに「風に吹かれて」しか良さが分からなかった汗。
ベスト盤って、大ヒット曲だけを集めたんちゃうんかいって、生意気言ってました。
すみません。
これで挫折しちゃう人も多いし、それはもったいない。
そこで、今作です。
 
バーズは⑥の他にも活動中にディランのカバーをたくさん演っていて、解散後にそれだけを纏めた作品がこちら。
バーズのディラン楽曲へのアプローチは、とにかく簡潔で模範的。
とっても、優等生なんです。
ディランの書くメロディってなんてキャッチーで綺麗なんだろうって、初めて理解してゾクゾクすること間違いなし。
12弦のエレキ・ギターと確かなビートに、伸びやかなボーカル・ハーモニー。
それから、アメリカン・ミュージックの伝統に対する、素直な敬愛。
その全てが、見事に凝縮された1枚です。

楽曲解説

特に聴いてほしい名曲を、3つに絞りました。
 
まずは、やっぱり⑥。
一度聴いたら忘れられない、甘酸っぱいギター・イントロ。
そして最初の歌い出しから、完璧なハーモニー。
作者であるディランが絶対に作り出せなかった世界を、鳴らしてくれるぜ。
デビュー・シングルがいきなりチャート1位を獲得、フォーク・ロックが産声を上げた記念すべき1曲です。
次に、⑮。
本家ディランのシングルとしては、残念ながらそこまでヒットしなかったんだけど。
ディランのメロディ・センスが優しく光る、隠れた大名曲です。
これがバーズの手に掛かれば、正にロック・クラシックへと化けるわけで。
十八番のハーモニーをあえて外し、シンプルなボーカル、ギター、ピアノ、リズムでこれ以上ない仕上がりに。
これを極上と言わずに、何と言う。
アウトロの余韻が、いつまでも心に残るんだなぁ。
 
ロッド・ステュアートやジェフ・バックリィ等、名だたるシンガーのカバーも多数あり。
1971年に開催された世界初のチャリティ・ライヴ「バングラディッシュ・コンサート」では、ディランがジョージ・ハリスンとコラボ。
こちらのテイクも、素晴らしいです。
そして最後に、⑦。
これはもうね、人生と共に歩いていく曲。
一過性のヒットとかじゃなくてさ、いつまでもどこまでも、リスナーである自分の変化と共にずーっと歩いていく大切な1曲。
今作におけるディランという具材でバーズが料理した楽曲の中で、群を抜いてると思う。
1992年にディランのデビュー30周年記念コンサートがあって、錚々たるメンツが参加したんだけど。
スティーヴィー・ワンダー、ルー・リード、エディ・ヴェダー、ジョニー・ウィンター、ロン・ウッド、ニール・ヤング、エリック・クラプトン、ザ・バンド、ジョージ・ハリスン…etc。
凄いでしょ?笑
そして勿論、マッギンも参加。
このコンサートではディランのカバーを、各ミュージシャンがそれぞれのアレンジでプレイするんだけど。
コンサートのラスト、ハイライトと言ってもいい大団円で、⑦をプレイ。
メンバーは、ディラン、マッギン、トム・ぺティ、ニール・ヤング、クラプトン、ジョージ。
ここで採用されたアレンジが、今作に収録された⑦なのよ。
歌い出しも、マッギンだし。
本家ディランや他のアーティスト達からの信頼が分かる、バーズの力量を示すエピソードです。

影響と遺産

バーズは⑥でデビューしていきなりチャート1位を記録した後は、メンバー交代やサウンドの変遷を繰り返していく。
マッギンの他にも、アメリカン・ロック史におけるキーパーソン、デヴィッド・クロスビーやグラム・パーソンズも在籍したスーパー・バンドですから。
3rdアルバム「霧の5次元」は、世界初のサイケデリック・アルバムとも言われてるし。
 
フォーク・ロックの礎を築いた偉大なバンドってよく言われるけど、要は折衷案。
今では安易に思いつきそうなアイディアだけど、当時はそうじゃなかった。
しかもバーズの凄いところは、そのアイディアを早い段階で、且つ完璧に実践できたこと。
そしてフォークとロックの掛け合わせに始まった音楽的探求は、カントリー、ジャズ、サイケデリア、エレクロニック・ポップをも組み合わせていく。
しかも、原料となる音楽の質を薄めることなく、素朴に活性化させていく手法で。
広く深い音楽的視野を持ち続けて、万華鏡のように華やかでポップなモダン・ミュージックを、世に発表し続けたこと。
これが、バーズの実質的リーダーだったマッギンの最大の功績だと思います。
その後のロックの歴史、そのものだから。
ロックは進化するんじゃなくて、変化し続けるものだから。
様々な変化を遂げながら、一回りづつ大きくなっていくものだから。
そこにはいつだって、他ジャンルの音楽との折衷、つまりは異種交配を繰り返していくことが必要だったんだよね。
 
バッファロー・スプリングフィールドも、トム・ぺティも、R.E.M.も、ウィルコもみーんなバーズの影響を受けた。
ブリット・ポップの口火を切った伝説のバンド、ストーン・ローゼスも、ロンドン・パンクのスタイルで轟音とノイズを撒き散らすそれまでのサウンドから一転して、成功を収めたのはバーズを参考にしたものだったし。
フォーキーでサイケ、ギターはアルペジオ。
そこに美しいメロディが乗っかって、デビュー・アルバムがロック史に刻まれたんだよね。

余談

使用楽器

・リッケンバッカー360/12

上記⑥の映像で弾いてるのが、これ。
前述したように、1964年のビートルズのアメリカ上陸の際に衝撃を受けたマッギンが、「ハード・デイズ・ナイト」でジョージが使用してるのに憧れて購入したもの。
この「/12」という表記は12弦を意味していて、前回のブログで書いたように、世界初のエレキ・ギターがリッケンなら、世界初の12弦エレキも当然リッケン。

この1本が奏でる音色がマッギンの代名詞となって、フォーク・ロックのサウンドを確立。
そして多くのミュージシャンに、絶大な影響を与えていくことになります。

最後に

をはじめとしたディランの数々のカバーが切り開いた扉の意義は、現在に至っても全く薄れてない。
フォーク・ロックの誕生を高らかに告げるファンファーレみたいなオープニングのギター・リフが、全てを物語ってます。
これを聴けば、ディランを聴いてみたけどイマイチだった人にも必ず良さが伝わるはず。

ちなみに冒頭で紹介した映画「アヒルと鴨のコインロッカー」も、是非。
社会派ミステリーの傑作で、ディランと代表曲「風に吹かれて」にハマること間違いなし。
作者である伊坂幸太郎は大のディラン・ファンで、神様の影響力は計り知れないね。
神様入門に最適な音楽が今作だとすると、最適な映画はこの「アヒルと鴨のコインロッカー」だと思ってます。

では最後に、こちらを紹介して終わりにします。
マッギンはバーズ解散後も音楽活動を続けて現在に至るんだけど、その中から個人的にグッド・ジョブを。
カート・コバーンの恋人だったメアリー・ルー・ロードのこの代表曲で、往年のギターをプレイ。
十八番のサウンドがキラキラと輝く、ドライヴ中に聴きたい曲の筆頭です。
このアウトロが、今日も夕陽と一緒に沈んでいくぜ。

今回も最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
それではまた、次の名盤・名曲で。

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この記事を書いた人
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Kazuki

合同会社Gencone GANNON運営代表

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