生活に寄り添うあのメロディ~シンボリックな意味を持った音楽
目次
イントロダクション
皆さんは、夕方5時に流れる時報のメロディを聴くと何を感じるでしょうか。
夕日が沈んでくるオレンジ色の景色が浮かんだり、「そろそろ家に帰らなきゃな~」と帰宅を迫られる気持ちになりませんか?
今回のブログでは、日本で特定の状況やシーンにおいて使われる印象的な音楽をご紹介します。
ある場面やシチュエーションで繰り返し聴かれ、無意識に刷り込まれている音楽は、シンボリックな(象徴的な)意味を持った音楽と言えます。同じ状況下である特定の意味が連想されるため、様々なシーンで音楽が利用されています。
私たちの生活に溶け込む音楽の意味を自覚して聴いてみると、意外な面白さがあるかもしれません。
閉店や終業のBGMとして使われる”別れのワルツ”
商業施設や様々なお店で、営業の閉店時間近くになると流れる音楽と言えば、何の曲を思い浮かべますか。
答えは「別れのワルツ」という曲です。
この楽曲を聴くと、名残惜しさを演出する憂愁のムードが「早くお店を出なければ、、」と焦って買い物を済ませないといけない気持ちになりませんか?
「蛍の光」と「別れのワルツ」の違い
もしかしたら「蛍の光」だと思った方もいるのではないでしょうか。「別れのワルツ」と比べて、一聴すると似たメロディで違いが判りずらいかと思います。
実は、両楽曲ともにスコットランド民謡「オールド・ラング・サイン(Auld Lang Syne)」が元となっています。
「蛍の光」は、1881年に誕生し、「オールド・ラング・サイン」に稲垣千頴による日本語の歌詞をつけた楽曲です。
日本海軍学校の卒業式や士官が離任する際に使われたことから、別れのイメージが定着し、全国の学校にて卒業ソングとして使われるようになったそうです。
一方、「別れのワルツ」のオリジナルは、1949年に日本で公開されたアメリカ映画『哀愁』の名シーンに使用するためオールド・ラング・サインをワルツ風にアレンジした楽曲です。映画の大ヒットを受け、日本人作曲家の古関裕而が採譜、編曲し、新たな邦題にて付けて発表したのが「別れのワルツ」です。
上記の映画にて、レストランの閉店時間になり、名残惜しくも分かれるシーンに使用され、原曲の「オールド・ラング・サイン」の歌詞も過ぎ去った友情が歌われています。また、「蛍の光」によって既に別れのイメージが浸透していたため、「別れのワルツ」のヴァージョンが退店を促すBGMとして使用されるようになったようです。
また、「蛍の光」は4分の4拍子、「別れのワルツ」は4分の3拍子なので、よくよく聞き比べると違いが変わるかもしれません。
手品の披露に使われる楽曲「オリーブの首飾り」
テレビやステージにて、手品が披露されるシーンで定番のBGMで流れる楽曲と言えば、イージーリスニング/ムード・ミュージックで知られるポール・モリーアの「オリーブの首飾り」です。
実は、この曲が手品界で広まったのは日本奇術協会名誉会長である松旭斎すみえさんのおかげだと言われています。元々はフランスのグループ、ビンボー・ジェットが制作した「El Bimbo」が原曲で、その後ポール・モーリアによってアレンジされ、「オリーブの首飾り」として生まれ変わりました。
松旭斎すみえさんがこのヒット曲を耳にし、自分のショーで使うことにしたことが、手品師たちの間で広がり、定番化するきっかけとなったのです。現在では、コメディやクラシックな手品パフォーマンスでおなじみのBGMとして親しまれています。
なお、手品界の著名人であるMr.マリック氏が愛用している楽曲は、アート・オブ・ノイズの「Legs」であるということも付け加えておきましょう。
運動会の徒競走で使われる「天国と地獄」
ジャック・オッフェンバック / 天国と地獄
ルロイ・アンダーソン / ラッパ(トランペット)吹きの休日
ロッシーニ / 歌劇「ウィリアム・テル」序曲
運動会では、幼稚園から高校までいろいろな学校で、たくさんの競技が行われます。中でも、徒競走のような順位を競う競技で、リズミカルなクラシック音楽が良く流れます。その中でも、「天国と地獄」は有名ですね。
選曲としては、アップテンポの管弦楽曲やオペレッタが人気で、聞くと自然に気分が上がり、闘志も湧いてくる感じがします。
クラシック音楽が運動会で使用される背景には、明治時代以降の近代化によって運動会が普及したことが関係しています。その頃から、運動会向けのクラシック音楽が収録されたレコードが全国の小学校で利用されるようになり、現在に至るまでその伝統が続いています。
ファミリーマートの入店音
セブンイレブンやローソンといった多くのコンビニがある中で、ファミリーマートの入店メロディは印象に残るものですね。
このメロディの作曲家は、稲田康さんという方で、現在は指揮者として活躍されています。以前は、松下電器(現パナソニック)にて家電製品の音の調整業務に携わっており、その際にこのメロディをドアフォン用チャイムとして作曲したそうです。
それゆえ、ファミリーマートで使われている理由は、特別に作曲されたわけではなく、単にパナソニックの標準的なドアフォンが採用されたからだと言われています。
長い間、この曲にはタイトルがありませんでしたが、デイリーポータルZの取材により、作曲家にタイトルをつけていただくことになり、「メロディーチャイムNO.1 ニ長調 作品17『大盛況』」という名前が付けられたそうです。
マクドナルド ポテトが揚がった時の音 ”ティロリティロリ”
マクドナルドといえば、ファストフード店の代表格で、店内でよく耳にするあの“ティロリティロリ”という音は、独特な魅力がありますね。
実は、「ティロリティロリ」は、マクドナルドでポテトを揚げる際のタイマーが設定されたアラート音なんです。この音はシンプルで親しみやすく、調理スタッフにとってもわかりやすい合図として機能しています。
この音を聞くと、なんだかポテトが食べたくなりますよね。
興味があれば、マクドナルドのyoutube公式チャンネルでティロリ音を公開しているので、ぜひチェックしてみてください。
また、マクドナルドの店内で流れるBGMに関しては、USENが時間帯ごとに作成した専用プレイリストが用意されているということです。
参照:
マクドナルド専用USEN番組 ミュージックバリュー | マクドナルド公式
「マクドナルドの店内BGM」のディープさに感動して“中の人”に直撃したら本当にスゴかった話 | Business Insider Japan
吉本新喜劇 「Somebody Stole My Gal」
吉本興行が主催する大阪を代表するお笑い劇「吉本新喜劇」で、開幕時に流れる曲と言えば、「Somebody Stole My Gal」です。この曲は、通称<ほんわかパッパ>として知られています。
レオ・ウッドが1918年に作曲したこの曲は、日本語では「恋人を寝取られて」という失恋ソングですが、吉本新喜劇で使用されているバージョンは、ピー・ウィー・ハントが1954年頃にリリースしたアルバム『Swingin’ Around』に収録の、明るく軽快にカバーされたバージョンです。この曲の特徴的な音色は、ワウワウミュートを装着したトランペットによるもので、<ホンワカパッパ ホンワカホンワカ…>とコミカルに表現されています。
「お笑い花月劇場」が朝日放送(ABC)で放送が始まった頃から、この曲は吉本新喜劇のオープニングテーマとして使用されています。石田健太郎さんという音楽に造詣が深いディレクターにより選曲され、脚本・演出を担当していた竹本浩三さんがこの曲を採用したそうです。(テレビ番組『5時に夢中』2020年5月13日放送追跡ベスト8より)
現在も毎日放送(MBS)で放送されている吉本新喜劇では、引き続きこの“Somebody Stole My Gal”が流れています。
ニッポン放送 ラジオ番組『オールナイトニッポン』「Bittersweet Samba」
アメリカの音楽デュオ、ハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラスが1965年に発表した「Bittersweet Samba」は、セカンド・アルバム『Whipped Cream & Other Delights』に収録されており、心地よいメロディとラテン風のリズムが特徴的なインストゥルメンタル曲です。
ニッポン放送にて、朝妻氏がラジオ番組『オールナイトニッポン』のテーマ曲を探すよう高崎一郎氏から指示され、最初に提案したマッコイズの「Come On Let’s Go」はイメージに合わず、次に提案したハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラスの「あめんぼうとバラ」も受け入れられませんでした。しかし、同アルバムを一曲ずつ聴いていくうちに、「Bittersweet Samba」を見つけて高崎氏が即決したそうです。
現在まで何十年もの間テーマ曲として使われ続けてきたことで、「Bittersweet Samba」は『オールナイトニッポン』リスナーにとって番組の象徴的存在となっています。
参照:
”かけ間違え”ではなかった! 『オールナイトニッポン』のテーマ曲が『ビタースウィート・サンバ』に決まった真相が明らかに – ニッポン放送 NEWS ONLINE
フジテレビ テレビ番組『F-1グランプリ』「Truth」
フジテレビで放映されていた番組「F-1グランプリ」のテーマ曲として長年採用されていたのが、T-SQUAREによる「Truth」です。
「Truth」は、日本のフュージョン・グループT-SQUARE(以前はザ・スクェア)が1991年にリリースしたアルバム『IMPRESSIVE』に収録されています。
フュージョンは、1970年代から1980年代にかけて日本で流行していた音楽ジャンルで、FMラジオや深夜テレビ番組、トレンディードラマ、CMなど様々なメディアで取り上げられており、当時F-1の盛り上がりとともに放映されていた「F-1グランプリ」でも、レースの熱狂と疾走感を演出するにふさわしいこの曲が採用されたようです。
現在でも、モータースポーツのスタイリッシュでスピード感あふれる映像に合わせて使用されることが多いですが、80年代当時の流行の紹介やイメージを想起させるために採用されている場合もあるようです。
まとめ
ここまで、特定の状況やシーンにおいて使われる印象的な音楽をご紹介しました。
目的に応じて作成された機能的な電子音から、楽曲イメージに合わせて選曲されたBGMまで、様々なメロディが私たちの生活に根付いています。
これらのメロディに触れることで、思いがけない風景が頭に浮かんだり、感情が呼び起こされたり、時には特定の行動に導かれることがあります。
ぜひ身の回りにあるシンボリックな音楽に耳を傾けてみてください。意識的に耳を傾けてみることで、新しい感動や楽しみが発見できるかもしれませんよ。
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この記事を書いた人
Kouta
合同会社Gencone代表